島村楽器公式ブログ

全国展開している総合楽器店のスタッフが、音楽や楽器の楽しさや、楽器店にまつわるお話をお伝えします。

2020年春 弦楽器買い付けレポートその5「ウィーン編 Part2」

今回の買い付けは、2020年2月13日~2020年2月21日に行いました

どーも皆さんGuten Tag!!
シマムラストリングス秋葉原:マネージャーの糸山です。
先日に引き続き、今年はベートーヴェン生誕250周年のメモリアルイヤーということで、楽器買付としては初めて「音楽の都」ウィーンを訪れています。

本日は、そのウィーンゆかりの音楽家たちが多く贔屓にしている、凄腕の弓職人をご紹介したいと思います。

f:id:shimastaff-03:20200314152523j:plain
ウィーン郊外の閑静な住宅地にある自宅工房を訪れました。

ここウィーンで弓を専門に製作するBogenmacher(ボーゲンマッハー=弓職人)、Thomas M.Gerbeth(トーマス・M・ゲルベス)氏をご紹介致します。

f:id:shimastaff-03:20200314191305j:plain
左から茂木、ゲルベス氏、奥様のアンケさん、グランフロント大阪店店長の古西。親方がTシャツ姿なのは、今日は工房の定休日だったからです。無理を言って我々の訪問アポイントを受けて下さいました。Danke!!


ゲルベス氏は1968年生まれ。
修業時代には、Wolfgang Dürrschmidt(ヴォルフガング・ダルシュミット)、R. Herbert Leicht(R.ヘルベルト・ライヒト)、Günter A. Paulus(ギュンター・A・パウルス)、Steffen Kuhnla(シュテファン・クンラ)、そしてRichard Grünke(リヒャルト・グリュンケ)など、ドイツ各地の弓製作工房で腕を磨きました。

f:id:shimastaff-03:20200217162209j:plain
ゲルベス氏はドイツ仕込みのドイツ語なので、トライリンガル茂木もスラスラとお話していました。

1992年にはイギリス・マンチェスターのコンペティションで金メダルを受賞。1997年にはドイツ・ミッテンヴァルドのコンペティションでも金メダルを受賞しています。

f:id:shimastaff-03:20200315203422p:plain:w350

1996年には当時パリに居た現代巨匠:Stéphane Thomachot(ステファン・トマショー)の工房でスキルを磨き、翌年1997年にここウィーンで独立を果たしました。

独立以来たゆまない研究と製作の結果、音楽の都ウィーン在住の一流演奏家たちが最も頼りにする弓のエキスパートとして名をはせ、ウィーンフィルはじめ多くの演奏家、ソリスト今では日本人を含めて世界中からの注文をこなす毎日だそうです。

f:id:shimastaff-03:20200217161103j:plain:w350
壁にはゲルベス氏がドイツ国家資格「Meister」であることの証明書が飾られています。(マイスター茂木も持っていますよ♪ 「自称マイスター」じゃないですよ♪)

こちらの工房は何名の職人が働いているのか?・・・と聞くと、工房メンバーはゲルベス親方と製作アシスタントが1名。

f:id:shimastaff-03:20200217162201j:plain
アシスタントのザイフェルトさん、この日は粛々とラッピングの仕上げに集中しいました。

そして、毛替えを専門で行う奥様アンケさんと3人で運営されています。

f:id:shimastaff-03:20200217160853j:plain
奥さんのアンケさんは毛替えだけを担当する『毛替えのスペシャリスト』。ご両親はヴァイオリニストで、アンケさんご自身も幼いころからヴァイオリンの英才教育を受けていました。

工房内を案内されながら奥に進むにつれて、これまで数多くの世界的弓工房で買い付けしてきた私達でさえ、見たこともない計測器や工作機械が出てきて驚かされました。

弓製作の本場フランスでは、親子や弟子に製作ノウハウを直にアナログ的に伝えてきた伝統がありますが、ゲルベスさんはその感覚的な部分を可能な限り「見える化=データ化」して自身のオリジナル弓製作に成功している希有な弓製作家であると言えます。

これまで科学的に収集したトルテ、ぺカットなどのいわゆる名弓と言われる弓の膨大なデータから、自身の理想的なオリジナル弓を製作するポイントを説明してくれました。

ブラジルで厳選された理想的な材料

f:id:shimastaff-03:20200315123018j:plain
弓製作に使用するフェルナンブーコ材は、数十年前からゲルベス氏自らブラジルで厳選してきた極上品質の材を、解析した特性別に色分けして自然乾燥保存されています。氏はブラジルでのフェルナンブコ植林活動にも積極的に関わっています。

3D-CADの導入。

f:id:shimastaff-03:20200217160955j:plain
弓のヘッドは自由曲線が多い形状ですので、図面で正確におこすのは至難の業です。ゲルベスさんの工房では三次元計測機を使用し、寸法・形状を精密に測定し、立体図面を360度グラフィカルに確認することが可能です。
多くの優れた古い弓をデータ化することで、自分のオリジナル弓ヘッドの理想的な形状を生み出すことに大いに役立てていると同時に、高精度の名弓コピー製作依頼にも活用しているようです。
マイスター茂木も『弓作りでここまで徹底した解析をやっている職人は初めて。』との事。最先端技術に食い入るように見入っていました。

弓の反りデータ化

f:id:shimastaff-03:20200315124644j:plain
2つめは、この壁にある装置で弓の反りを正確に採寸します。デジタル計の測定子で測定されたデータはすぐにPCに転送されてデータとして取り込まれます。弓の棹は毛を緩めた状態だけでなく、演奏状態にした場合のデータも収集されていました。PCに取り込まれた測定データは瞬時にグラフに描き出されます。
f:id:shimastaff-03:20200315184557j:plain

このほか様々な要素を解析しながら弓製作に生かしますが、製作自体は伝統的なマイスターの技術と経験や感覚を最大限に発揮して行っています。

特にゲルベス氏自身が最も拘っている棹の反り付けは、豊富なデータをもとに得られた理想的なカーブを、1本ごとに異なるフェルナンブーコ材の特性を考慮しながら、手作業で時間をかけて丁寧に付けるそうです。
ゲルベス氏の弓は「まるで名弓で弾いているような、全弓にわたっての楽で自然な弓のコンタクト、ボーイングの安定感、自在なコントロール感覚」が特質してますが、この反り付けも大きく関わっているようで、ウィーンのプロ奏者、世界的ソリストが彼の弓を愛用する理由が納得出来ます。

このようにハイテクと伝統的マイスターの技を屈指して完成した最後には、奥さん(アンケさん)が物凄い集中力で毛替えをして、最後にゲルベス氏と奥さんによる試奏と微調整を加えてようやくほぼ完成するのも弓製作では珍しいことです。
「うちの弓は完成後に試奏して最終調整まで行うので新品でも毛に松脂が塗ってあるけど、中古ということではないので安心して下さい。どんなに最新機器に投資しても、優れた弓を作り出すので(人間の技術と耳=人間の感覚)を一番大切にしています。」これぞ真のマイスター!

f:id:shimastaff-03:20200315180117j:plain

このとき1本だけ完成していた超有名ソリストからのオーダー弓がこちら、ぺカットからインスパイアーされていますが、豊富なデータとゲルベス氏の経験からオリジナルの弓として製作されました。
弾き心地、手に吸いつくフィット感など極上でした。

f:id:shimastaff-03:20200315195249j:plainf:id:shimastaff-03:20200315195619j:plain

今回ゲルベス氏に金黒檀のバイオリン弓とチェロ弓をオーダーしてきました。入荷は5月の予定ですので、完成を楽しみにお待ち下さいませ(完売済、2022年分が次回入荷予定)。また古い弓のコピー製作も合間に受けているそうですので、こちらもご興味ある方は是非当社までご相談ください。

f:id:shimastaff-03:20200217162800j:plain:w350

因みにゲルベス氏の弓愛用者を少し挙げますと、フランクペーターツィンマーマン、タベアツィンマーマン、ジュリアフィッシャー、レオニダスカバコス、ヴェルナーヒンク、ゲルハルトシュルツ、等の錚々たるソリスト、ウィーンフィルなど一流オーケストラ奏者、音楽大学の教授と生徒さんなど書きつくせないほどです。

ウィーンの街はたった1日。非常に名残惜しいですが、翌朝早朝から電車移動。次の行き先はプラハです!
それでは今日はこの辺で。Tschüss!!

今回買い付けた楽器は、楽器フェスタでお披露目します

今回マイスター茂木が買い付けを行った楽器は、5月〜7月各地(グランフロント大阪・横浜みなとみらい・名古屋みなとアクルス・松本パルコ・南船橋・イオンレイクタウン・仙台泉・札幌クラシック)の島村楽器で開催される、島村楽器楽器フェスタにて展示・お試しいただくことが出来ます。
順次情報を公開致しますので、楽器フェスタページもあわせてご覧ください。


2020年春 楽器買い付けレポート

© Shimamura Music All rights reserved.