島村楽器公式ブログ

全国展開している総合楽器店のスタッフが、音楽や楽器の楽しさや、楽器店にまつわるお話をお伝えします。

三宮オーパ店 【K.Yairi 工場見学レポート (前編)】

こんにちは。Webサイト担当のサクラザワです。
全国の島村楽器 各店舗が配信している、店舗情報・イベントブログの記事の中から、おすすめの記事をご紹介するこのコーナー

今回は兵庫県 三宮オーパ店 クボがレポートした、K.Yairi 工場見学についての記事をご紹介します!

K.Yairi」は岐阜県可児市で株式会社ヤイリギターが展開しているアコースティック・ギターのブランドです。厳選した木材から1本1本、手仕事で丁寧に製作を行うため、1日に生産できるのは20本程度。30人ほどのクラフトマンによる多種少量の手工生産というスタイルを1970年代から守って高品質なギターを生産しています。

K.Yairiについて更に詳しくは公式サイトをご覧ください!
www.yairi.co.jp

なかなか見る機会の少ない加工前の木材の状態から、ギターができあがるまでの職人さんのこだわりや思い入れが詰まった内容が盛りだくさんになっていますので、是非ご覧ください!

こちらの記事は、島村楽器店舗ページで掲載している情報の中から、おすすめの記事をそのまま掲載しています。
既に開催し終了しているフェア・イベント、販売が終了している商品情報の場合がございますので、ご注意ください。

皆さんこんにちは。

島村楽器 三宮オーパ店のアコースティックギター担当:久保です。
さて、今回皆さんにご紹介させていただきます内容はタイトルにもありますように、『K.Yairi 工場見学レポート』です。お伝えしたい内容が山ほどありますので、前後編でお届けしたいと思います。いつも以上に長丁場となりますが、最後までお付き合いいただけますと幸いです。


それでは早速。


2019年2月中旬、私は高なる鼓動を悟られぬ様、平然を装って岐阜県可児市に降り立つ。最寄駅は「名鉄広見線 日本ライン今渡駅」。


心中は初めての路線は迷子になっていないかがずっと不安で、常にGoogle先生にお世話になってるありさまでしたが、何とかノーミスで目的駅に到着。
ホームから降りるとそこには、当社選りすぐりのアコースティック担当者が。。
「おはようございます!2日間よろしくお願いします」と軽めの挨拶を済ませ、いざYairi工場へ!!


徒歩でおよそ10分、小高い丘の上に見たことのある看板が…

心中「ついにYairi工場にキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!」
大人げなく興奮してしまいました。


写真はありませんが、社長の矢入賀光(ヨシミツ)氏はじめスタッフさんに丁重にお出迎えいただき、2日間の研修室へご案内いただきます。
研修室に向かうまでにもギター工場ならではの風景がずらり!





一部ご紹介させていただきますが、ギター愛好家であればこの情報だけでおそらくは興奮してしまうでしょう。それほどに圧巻です。



さていよいよ研修室のご紹介です。
通常は従業員の休憩室として活用されているスペースのようですが、近隣のレクリエーションや、アーティストのライブイベントとしても使用されているとても趣ある空間。






窓から見える可児市の町並みは安らぎ以上に優越感すら覚えます。


ヤイリギターの歴史が壁一面にずらり。


初めて目にする樹齢約400年の丸太…何やら年輪に合わせて年表が貼られていますね。実に感慨深い。。。





インレイに使用されている貝(アワビ)の原型も私自身初めて目にする機会となりました。






床板もマホガニー!


と、まずは研修室で既にノックダウン状態の私でしたが、目をギラつかせながらひとしきり座学を習得しつつ、時間はあっという間に過ぎ、待ちに待った工場見学!!
なお、この後ご紹介させていただく内容は、あくまで大枠のものとなり、場合によっては大事な工程をすっぽ抜かしているじゃないか!と思われる部分も多々おありかと思いますが、何卒温かい目で、心で拝見いただけますと幸いでございます。


それでは気を取り直して!スタートです!!


まずは、、、

木材ストック



これは 「桟(サン)積み」という積み方らしく、風通しよく乾燥させることを目的としているようですが、積み方によっては木が曲がったりする為、匠の技術が必要らしいです。ジェ〇ガすら得意でない私には厳しそうです。。



↑は今回、講師をしていただきました森氏。柱が…。。。
どんな稚拙な質問にも懇切丁寧にお答えくださるスーパージェントルメン。





各木材に日付の記載がありますが、、、仕入れてから10年は自然乾燥させているとのこと…10年といえば私が島村楽器に入社したころ…今使われている木材が私とほぼ同期!


なぜ10年も自然乾燥が必要か?と思われると思われますが(日本語がアレですが…)、ヤイリギターの掲げている「3世代使えるギター」の作成において、強制乾燥よりも自然乾燥でゆっくり水分を抜いた方が木材に負荷がかからず、長期使用が可能になるからという理由だそうです。


これだけ木材のストックがあると「これ何の材かなぁ…」とならないかと野暮な質問をしてしまいましたが、やはり見ればわかると職人ならではの回答。失礼いたしましたm(__)m


ちなみにここで紹介した木材は加工前の「単板」です。
接写してみると分かる通り、まだまだざらざらした無骨さがあり、毎日目にしている完成したギターとは全然違った印象。


それを多種多様の工具を駆使し、究極の美に形成する工場へ潜入します。いざっ!

木材をカット

どこの何に使われているかは聞きそびれてしまいましたが…匠感が溢れ出ていました。


これは見覚えのあるフォルム!そう、トップ板ですね!間違いなく!!


サウンドホールの外周(口輪部)に溝が彫られており、色や材の違ったテープ状の帯を重ね手作業で丁寧に装飾を施されています。

今回撮影した画像にブレーシング工程がなく、様子が伝わりきらないと思いますが、気持ちで解説します!


ブレーシングには軽いがコシの強いスプルースの木材を用いており、メインの「X支柱」の下を通る部分に溝を彫り、熱と圧力を加えて接着。この状態では私たちが目にする角の削れたブレーシングではなく、強度を増す目的で四角い状態のまま張り付けるらしく、そこから手作業で削っていくそうです。


森氏いわく「Yairiのギターはよくノンスキャロップじゃないか?と言われる」そうですが、基本的にはすべてスキャロップ加工を施しており、他のブランドに比べると削りが控え目だそうです。


アコースティックギターは特性上、鳴らそうと思えば(勿論トータルのバランスの話にはなりますが…)軽くしてやれば鳴るようになりますが、長年使えるギターとは言いにくい。よって「ヤイリギターは初めから鳴るギターではなく、長年使える強度と変化していく音色に重点を置いて作っている。」というプレイヤー冥利に尽きるお言葉を頂戴しました。一販売員である私たちがお客様にお伝えしなければならない最も重要な言葉に感銘を受けました。


さて、そんな感涙している私を背に、ブレーシングを貼り合わせたTOP材をご紹介中の画像。これが工程後のトップ板です。


森氏の手にしているボトルはニカワの接着剤

※右手でお持ちの缶も勿論同じものが入っています!決して命の黄金水ではございません!!



一般的な木工の接着剤を使用しても良いが、気温によって変化するらしく、部位にもよるが、ギター作成の上で木材の接着剤はニカワがベストとのこと。また、熱で剥がすこともできるため、修理も容易になるんだとか…知らないことだらけです。。。

サイド材、曲げ工程

様々な機器を駆使し適正な曲げを形成されています。画像ではわかりづらくて申し訳ありませんが、奥にお湯がはってあり、湯気で木材を加熱しゆっくりと曲げていく工程。この作業がとても緊張するらしく、強い力をかけると割れてしまう繊細で根気が必要な作業。





息をのむような美しいカッタウェイの曲線が何とも言えません。


両面が組み合わさり、隅木、ネックジョイントのブロックも装着し、サイド材としての全体像が見えますね。





トップとサイド、バックが組み合わさり、ボディの形状に、、、おや?トップとバックそれからブレーシングがサイド材よりはみ出ている、、、


ヤイリギターの工程上、音の伝達と完成した後の強度を計算した手順のようです。

加工を間近で見たことでこれまで何とも思っていなかった疑問、、、というよりも凄さ!?それは、サイド材とバック材の組み合わせもただ張り合わせるだけではダメで、文字通り接着していなければならないこと。


もともと、バック材は湾曲していて、メーカーによって形状も若干異なる上、木それぞれに癖がある状態のものを個性にあった形状に整え、それを半永久的にはがれないように形成する技術もすべてが凄技であると思い知らされました。


ボディに関する画像は以上となりますが、この後はみ出た部分の削り、バインディング(外巻きの装飾)、パーフリング(バインディングの内側の装飾)の溝彫り(バインディングとパーフリングの成型に段差が必要)→バインディング、パーフリング貼付け工程を経て、ボディの完成に至ります。





ネック工程


Yairiのネックは主に4形状。ギターマニアの方?ならヘッドの形状を見るとお分かりになるかもしれませんが、

A:Vネックタイプ(ヴィンテージMartin系)
B:Yairiの一般的な形状
C:カマボコタイプ(Gibson系)
無印:左右非対称ネック(MUSICMAN AXISなどで採用されているタイプ)


となっております。私は手が小さいのでBが好きでした。


ただ、ここにあるのはあくまで工場見学用のサンプルで、実際はネック専任の職人さんが、身体に染みついた感覚をもとに1本1本手作業で作成しているのだとか。。。工場に来れば(※要予約)直接好みのグリップに仕上げてくださるという豆知識もいただきました。


ヤイリギターを語る上でご紹介しなければならない点として、エクステンド・ネックジョイントシステムが挙げられます。


一般的なネックよりもジョイント部が長く成型されています。




指板面をネックエンドまで支えることができ、音の伝達しかり長年の演奏にも耐える強度が確保できる仕組みとなっているヤイリギターオリジナルのネックジョイント。個人的な見解になりますが、私自身、店頭で展示しているギターをほぼ毎日メンテナンスしていますが、思い返せばヤイリギターは他のブランドに比べほとんどトラスロッドを回す機会がないと感じていました。


理由は「作りがいいから」という曖昧な物で、深く考えていませんでした(これはこれで問題!?)が、ジョイントシステムだけの要因ではないにせよ、他との大きな違いはこういった技術の積み重ねであるとこれまた痛感させられました。


そのこだわり抜いたネックはようやくボディと一体化します。

といっても簡単な作業ではなく、仮組→スケールで計測→ネックを外す→また仮組、、、適正な位置が決まるまで微調整を繰り返し実施。個体によって調整回数も異なり、数ある作業工程の中でも非常に難易度の高い作業だそうです。根気強く、丁寧に進める選りすぐりの職人さんあっての工程と言えます。


それを経て、ようやく先ほど完成したボディとの組み込み、合成接着剤で固定されます。

トラスロッドを仕込み、指板を張り合わせた時点で、私たちがいつも目にするアコースティックギターの形状になります。



やっと



ギターに…



流石に



長すぎますので多少割愛(できるかなぁ…)しつつ

次はネックの削り「ハンドシェイピング」に入ります。

画像が荒れていて伝わりにくさMAXですが、森氏が手にしている工具を用いて職人さんがシェイプを形成。


カタログに掲載されるギター全てがこの工程を通過するようで、森氏いわく「機械加工でラフなシェイプは出るが、ネックは人が握るものが故、人の感性に合わせて削るというところを重視している。」とのこと。


ヤイリギター=握りやすくて手に馴染むという印象を個人的にも持っていますが、この工程こそ人の所業そのものではないでしょうか。

さて、ネックも完成しました。

次は塗装工程に入ります。


ヤイリギターは基本的にウレタン塗装です。


ギターはやっぱりラッカー塗装だ!というご意見も非常に多く頂戴します。私も塗装論をするつもりはありませんが、少し粗目に要約すると「ウレタンでも非常に薄く塗れる技術が確立された昨今、風合いを除き(手間やコスト面も考慮すると)ラッカー塗装よりもウレタンのほうがいいパフォーマンスをする。」という意味合いで私は解釈いたしました。(私もラッカーの風合いが好きなタイプですが…納得です)


ウレタン塗装の工程は以下の通りです。(心なしか解説が荒くなっていますが…文章量の都合上お許しください)


何度も塗っては整え、塗っては整えの繰り返しで美しい鏡面が出来上がります。


ちなみに↓はバフ掛け作業。とても力のいる作業らしく、肉体的なスタミナと磨きという点での繊細さも兼ね合わさなければならない重要な作業。

同時にここまでの工程で約3か月ほど経過していることもあり、落下なんていうミスは許されない神経張り詰めっぱなしのハートも必要。。。職人さん曰く「重労働工程」だそうですが、このご苦労が今日の皆さんの笑顔に変わります。


塗装工程もクリアしたギターは…

フレットの打ち込みに突入します。


※フレットの打ち込み前に下記内容の「クラシック音楽ルーム」に移動するケースも多い。


フレット打ちの機械で仮打ち→なじみをつける意味合いでいったん乾燥工程(シーズニングルームへ)→手作業で打ち込み+調整の工程のようですが、今回は調整中の工程を激写させていただきました。

さて、いよいよ完成っぽくなってきましたが、何か足りない、、、そう

ブリッジ装着です。


ということで、ブリッジの取り付け工程に。の前にちょっと画像をご紹介。
工場内にサンプルとしてヤイリギターに装着されているブリッジの一覧がありましたのでご紹介させていただきます。

皆さんはどのブリッジが気になりましたか?


さて、気を取り直して工程に戻ります。
これまでも所々でご紹介させていただきました通り、木と木の隙間をなくす技術は音の伝達にとって必須の項目。

ヤイリギターのブリッジ接合には、トップ面とブリッジ本体に音の伝達漏れを軽減する意味合いで、ブリッジの形状に合わせトップの塗装を削って接着しています。(画像はサンプル用)流石に細かい!

たっぷり目に接着剤を塗り、はみ出た部分は後で処理。こうまでして音の伝達ロスを軽減しているんです。

「クラシック音楽ルーム」への移動

基本形成がほぼすべて完成した後、噂に聞く「クラシック音楽ルーム」に移動されます。




この看板がヤイリギターの凄さを象徴しています!

全て上記工程通りとは一概に言えないようで、フィニッシュや材の違いで変更しているようです。

中はしっかり温湿度が調整されており、文字通りクラシックが流れていましたが、、思った以上に大音量!どうやらギターになる前の段階で振動を与えることで、より良く鳴るギターに成長してもらいたいという「思い」も含めての工程だとか。。。噂は本当でした。

その後は、ナット、サドル、ペグ等の取り付けを経て、を張り、私たちが触っている状態と同じアコースティックギターとなります。


この工程も今回は拝見することができませんでしたが、個人的な意見としてはヤイリギターのナット&サドルはものすごく低くセッティングされていて大好きです!


かねがね個体に合わせたセッティングを突き詰めて作成していらっしゃると伺っていたので、その気持ちを直接職人さんに伝えたかった…!

完成したギターは、サウンドチェックルームですべて検品。




参加者の「ここではじかれてしまう個体はあるか?」という質問に対し、森氏より「個体の特性や癖は、各工程で職人が補いつつ仕上げているので、ほとんどありません。」という、ここまで見てきた工程すべてが納得できる回答をいただき、更に素晴らしい企業だと感じました。


完成したギターは、貴方のそばに行くのを今か今かと待ち侘びているようですね。


というわけで、冒頭でご案内した通り「膨大な記事」となりましたがいかがでしたでしょうか?


「長過ぎ」というごもっともな回答が一番に聞こえてきそうですが、少しでも私の興奮とヤイリギターの素晴らしさが伝わればと思い、一生懸命綴ってみました。この記事をご覧いただき少しでも気になった方(文章力や表現力の問題を除く)はまたお問い合わせください。

それではまた、膨大な後編をお楽しみに~

K.Yairi 工場見学レポート - 島村楽器 三宮オーパ店 シマブロ


ヤイリギターのこだわりの作業工程を垣間見ることができましたね。

次回の記事は、木材ストック部屋とK.YairiのカタログやHPでも紹介されているハンドメイドの工程をご紹介します。

お楽しみに!

それではまた!

© Shimamura Music All rights reserved.