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音楽力をアップする「耳コピのすゝめ 」第五回 スロー再生

こんにちはサカウエです。

耳コピのススメ第五回目は、前回の「聴き取り易くする」ための機材の活用方法の続きです。
前回の記事はこちら

皆さん、パンポットとイコライザー(EQ)の使い方は理解していただけましたでしょうか?今回は少々マニアックな内容かもしれませんが、ヨロシクお付き合いくださいね。

前回ネタのおさらい

まずは前回お聞きいただいた音ネタ(ツイン・シンセリードによるアルペジオ速弾きフレーズ)をお聞きください。

[file:shimamura-music:110906-01_TWIN SOLO_MIX01.mp3]

単純にコードのアルペジオを弾いているだけなんですが、アップテンポの曲では効果的なフレーズかと思います。

さて前回はパンポットやイコライザーを使って聴きやすくする方法をご紹介いたしましたが、とはいっても「でもやっぱりテンポが速すぎて聞き取れない」という方もいらっしゃったと思います。(好き嫌いは別として、確かに正確に演奏するのは結構難しいですよコレ)

人間が聴き取ることのできる音には(個人差はありますが)限界があるというお話は前にも書きましたが、でもそんなアナタに朗報です!!

次にご紹介する方法は、そのものズバリの直球勝負「再生速度を変える」方法です。

再生速度を変えてみた

世の中には「超速弾き」、「超絶技巧」フレーズばっかり弾くヒトとかおりますが、「ただ単に速いだけ」っていうヒトも・・・以下自粛・・・まあともかく、速いと聴き取りにくくなるのは確かですね。

でもそんな時は最後の手段!「ゆっくり再生できればよいジャン・・」というわけで実際に原曲の1/2のスピードで再生してみましょう

[file:shimamura-music:110906-02_TWIN SOLO_harf.mp3]
「やったねパパ、これならボクにも聞き取れるよ!」


以前ご紹介したとおり、一昔前、サカウエはアナログ・カセットMTRを使って耳コピしてましたが、どうしても速すぎて聞き取れないフレーズはMTRのモーター回転速度を1/2にして耳コピしていました。ちょうどコレがその状態ですね。

波形編集ソフトでこれを行うには「音程を12半音下げる」または「オクターブ下げる」といった処理を行います(後述する「タイムコンプレッション機能」はここではまだ使いません)

さてさて、この「ルンルン1/2スピード大作戦」は、速弾き以外にもドラムの細かいフレーズなどを耳コピするのにも適しています。

ためしにこれを聴いてみてください
[file:shimamura-music:110906-03_DrumSample3.mp3]

どうやって叩いているのか良くわかんないですね?ではコレを二分の一スピードで再生しましょう(オクターブ下がりますヨ)

[file:shimamura-music:110906-04_DrumSampleHarfTempo.mp3]

いかがですか、ノーマルスピードでは聞こえなかったスネアの音が聞こえてきたと思います。
最初のうちは、スネアは「ズドーン」、バスドラム「どどーん」と、この違いを聴き取れるようになるまでは10年はかかるんじゃねー?・・・と感じるかもしれません。
でも慣れてくると細かい装飾音なども意外にバッチリ聞こえてくる様になってくるからあら不思議。人間の適応力ってすごいですね。

譜面にするとこうなります

ちなみにこれはSteve Gadd(スティーブ・ガッド:超大御所ドラマー)大先生の「パラディドル」というテクニックを応用した有名なドラムフレーズです(チック・コリアのアルバム「フレンズ」の6曲目「シシリー」が代表格)

どう叩いているかというと、

RRLR LLRL RRLR LLRL

Rは右手のスネア、Lは左手のハイハット(右左は逆でもOK)で、一つ打ちと二つ打ちの連続ですね。(ドラマーの方はお馴染み)

上記の譜面中、○で囲ったスネアの部分は、実際にはかなり小さい音で演奏されますので、よーく聴かないとほとんど気づきません。
このように「あら、あの音なにかしら?・・ホラあれよ!あなた、やっぱり何か聞こえるわ!!」といった雰囲気の音を「ゴーストノート」と呼んだりします(今日の豆知識)
なお「ゴーストノート」は和製英語で、英語だとGrace noteと呼ぶらしいです。

「パラディドル」などのドラムテクニックに興味あるヒトは下記も読んでみると良いかも。

このように「ウキウキ1/2スピード大作戦」はたしかに重宝するんですが・・ちょっと待った!この作戦にはひとつだけ弱点がある・・・そう、ベースは聞き取れないのだ!

アナログの世界では再生スピードを1/2に落とすと音程はオクターブ下がっちゃうんで、ベースなどの低音楽器はまず聞き取れなくなります。ベースだけではなく、大体中央ドのあたりで鳴っている和音(というか、たいてい和音はこの音域なんですが)も聴き取りにくくなったのです・・・そう、今までは確かに・・・・

デジタル技術は万能か?

ということで何だか意味もなく意味深な感じでしたが、最近のDAWレコーダーは「音程を変えずに再生スピードを変える」ことができる機種が多くなっていますね。オーディオ・ループをDAWに貼り付けて、テンポを変えても追従してくるっていうのはもう当たり前。iPhoneでもできちゃいますね。

ですから「アナログの場合は再生スピードを1/2に落とすと、音程もオクターブ下がっちゃう」なんて話のほうが実は意外だったという方もいらっしゃったのではないでしょうか?

でも「音程を変えずに再生スピードを変える」なんてことチョット前までは、夢のまた夢、ハハッ!みんなもおいでよ夢の国へ、・・・みたいな感じのとてつもなくスゴイことだったんですよ。
すべてが現代のデジタル技術の進歩、パソコンの飛躍的な性能アップのなせるワザであります。

先駆けはACIDというソフト

ちなみに1998年にACIDというソフトがいち早く実装したのが、そのタイムコンプレッション、エクスパンド、ピッチシフト・・・横文字ばかりで疲れるなあ・・という一連の機能です。
一言で言うとオーディオデータでも自由自在にテンポとピッチを操ることができるという、スンバラシく画期的な技術で、当時はホントびっくりしました。

てなわけで前述のシンセリードの速弾きだってこんな感じに再生できるわけですね。
[file:shimamura-music:110906-06_TWIN SOLO_2times.mp3]

すごい!これで完璧・・・といいたいところですが現時点ではパーフェクトとはいえないですね。

そもそも周波数が倍になると音程は1オクターブ上がりますね。ですから逆に再生速度を二分の一にするってことはオクターブ下がるのが本来の自然の摂理なわけですね。
それを「音程を変えず」ってことは、(イメージとしては)どこかで誰かが無理してツラい役目を担っている感じになると思うんです(・・・説明しようとすると結構大変だし、サカウエも実はそんなに詳しくはないの・・理系のヒトにお任せします)

結果、どうなるかというと、音質や演奏のノリが原曲と若干変わってしまうという現象が起きるみたいですね。
モチロンこれは使用するソフトやプログラムの違い、スピードを変更する範囲の幅、等々の条件で精度は変わってきます。

「音程を変えず速度を変える」という技術は、英会話のリスニングなどで重宝する「遅聴き」機能付きのプレーヤーなどでも使われています。
ただし、単に言葉を聞き取るという目的において必要十分な情報量と、音楽が含有するそれとは、比較にならない程の開きがあると思われます。

したがって原曲との間の無視できない誤差が生じる可能性も少なくないので、サカウエの場合、細かいニュアンスなどの耳コピには、未だに速度&音程下げの方法をメインで使っています。

というわけで、今回は再生スピードを変えるという「禁じ手?」をご紹介しました。
デジタル技術が発達して色々と便利になってきましたが、あくまで「耳コピ」は音楽エッセンスを吸収するため手段の一つでしかありません。耳コピすることが目的にならないように自戒の念を込めたいと思います。

それではまた。

参考資料

スティーブ・ガッドのドラムが堪能できる名盤

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