島村楽器公式ブログ

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音楽力をアップする「耳コピのすゝめ 」第16回(最終回)「おいしい転調」について

遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。サカウエです。

さて耳コピに役立つ知識を1年以上にわたりご紹介してまいりましたが、前回の記事から半年も間を空けての登場が最終階で恐縮です(泣)

このコーナーが、ほんのわずかでも皆様の耳コピ・ライフの手助けになっていれば望外の幸せです。

というわけで最終階のお題は「転調」です。

転調は「調」が変わるということですが「調」については耳コピ連載第7回でもご紹介しております。詳しくはコチラもご覧ください:

そもそも転調とは

転調は英語では“Modulation”と言いますが、その名の通り曲の調(キー)が転ずる(変わる)ということです。

ハ長調だったら中心となる音(主音)はハ(ド)=C音ということですが、たった一つの調だけで進行するのではなく随所で転調することで楽曲に変化をつけて様々な表現を生み出すことができるわけです。

最近のJ-POPはもとより、ポピュラー音楽では転調は当たり前の様に使われていて・・むしろ転調のない曲のほうが珍しいかもしれません。

主音は目的地?

主音について少々触れておきます。

たとえばこれ、ショパンの有名な前奏曲ですが、キーはホ短調(Em)=シャープ1コ

いかがですか、終わりそうで終わらない・・そして紆余曲折を経て、すべてがラストのトニックEmにむけて収斂していくといったストーリーが感じられるかと思います。

この紆余曲折の部分こそが転調を始めとする様々な技法によって構成されているわけですね。

とはいえすべての曲がトニックで終わるとは限りません。中にはややこしいことに、トニックが一度も出てこないなんて曲もありますが、今回はそーゆーのはあえてパスすることにします~

転調の種類について

転調には様々なバリエーションが存在しますが、「一時的に転調するもの」と「完全に曲のキーが変化するもの」に大別できると思います。

それぞれ「一時的転調」、「本格転調」などと呼ばれているようですね。

この曲は「本格転調」の例です

Carpenters - Sing


未来永劫変わらぬ名作(元はセサミストリート挿入歌)ですが、この曲を聞いて

1:12 お子様合唱「お、雰囲気変わった~何が始まるの?」(期待感)
1:46 「なんだか感動的~」(高揚感)

・・・という印象を持ったとすると、アレンジャーの転調作戦は大成功ということです(^^)

ちなみにここではキーが何から何に変わったか(Eb ⇒ C ⇒ Eb )ということよりも、比較的シンプルな構成の曲が、転調で一層ドラマチックになったという「効果」を理解していただけたら幸いです。

いい忘れましたが74年のカーペンターズ東京公演では「ひばり児童合唱団」と共演しています・・

ドミナントモーションについて

ドミナントモーション」は以前「起立ー礼ー着席」のコード進行でも紹介しましたが、非常に安定感のある進行で「一時的転調」「本格転調」のどちらでも使われます。

いきなり遠い(関連性の薄い)キーに転調する場合に「ドミナントモーション」を利用すると「無理やり感」をある程度緩和することができます。

たとえば先ほどの「Sing」でも、Cに転調する場合は「G7-C」、Ebに転調する場合は「Bb7-Eb」と直前にドミナント・コードを挟み込んでいます。

こうすることで「なんだか展開変わりそう~」と一瞬ですがリスナーに心の準備と、期待感を与えるわけですね。

「突然転調」について

「sing」の場合、ドミナントコードを使うことで「いきなり感」を緩和出来ましたが、なんの前触れもなくいきなり転調するパターンを「突然転調」と呼んだりします。これは一時的転調でも使われます。

Yesterday and Tomorrow / ゆず

あまりワタクシらしくない選曲というのは自覚しております、大丈夫です。

最近は珍しくありませんが、イントロからメロに入る部分でいきなりのちゃぶ台返し・・・とでも申しましょうか・・・DからFに(#2コからフラット1コへ)唐突に転調していますね。びっくりしましたよ~

実は直前にFのドミナント「Csus-C7」が一瞬出て来るのですが、あまりに短時間なのでこれは「突然転調」分類としました。

さてお次。

エリック・クラプトン いとしのレイラ(Layla)

正しくはクラプトンが在籍したデレク・アンド・ザ・ドミノスの曲。
超有名イントロフレーズ(Dm)から、Aメロボーカルはまさかの半音急降下(C#m)!

フラット1コからシャープ3つへ変身です(これはホント伏線も無いので予想外)。当時はこれ斬新でしたね~痺れましたね~


これも秀逸です⇒あのこはだレイラ by エリックかけブトン


David Bowie/Pat Metheny - This Is Not America

1:24から半音突然転調ですね。ボーカルは10年ぶりとなる新作『ザ・ネクスト・デイ』を3月に発表したデヴィッド・ボウイですw

メセニー先生はソロ部分などでいきなり「半音上転調」というパターンが多いです。ファンはよく知っているので、この場合は「来るぞ、来るぞー」という期待感の中、お約束通り転調して「気持ちいいい~」という少々ややこしい世界かもしれません。


このように「突然転調」は「ホントいきなり前触れもなく」転調するサプライズ。ただし新鮮に聞こえる一方、場合によってはリスナーの期待を裏切りストレスを感じさせてしまうこともあると思います。

また多用すると曲の輪郭、印象を散漫にしてしまう危険性もあるので「突然転調」を使用する際は細心の配慮が必要だと思います。

いったんまとめ

では「本格転調」のパターンをいったんまとめておきましょう(Cから転調すると考えて)。

下記のような近親調への転調は比較的穏やかな雰囲気になるかと思います。

同主調(Cm)、平行調(Am)、属調(G)、下属調(F)、etc

()内は転調後のキー

一方、#(シャープ)b(フラット)といった調号の数が大きく異なるキーへの転調は、過激な印象を与えます。

増四度(Gb)、半音上(Db)、半音下(B)、調三度上(E)、長三度下(Ab)、etc

これは元のキーと遠い(=関係が浅い)からですね。

Gbキーというのはbが6個もついちゃうんで見た目にもすごく変わります。いきなりこんな譜面渡されたら一瞬身構えちゃいそうですね~(泣)

さて、曲中で完全に曲のキーが変わる場合「どの部分」で「どのキー」に転調するか?ということが重要になると思いますが、これはあまりに千差万別。ここでワタクシがあーしろこーしろというのはいささか僭越すぎると存じますので、

比較的単調な曲で、繰り返しが多い場合は、後半転調にトライするのもありかもね・・・たぶん

・・という少々消極的な態度でお茶を濁すことにします。みなさんも色々な曲を聞いて研究してみてはいかがでしょうかー。

一時的転調の例

続いて一時的転調です。最初のショパンもそうですが、今では殆どの曲で使用されております。

一時的転調には様々なバリエーションが存在しますが、いくつか「オイシイ転調」の例をご紹介して行きたいと思います。


エルトンジョン / Goodbye Yellow Brick Road (1973)

エルトン・ジョンは当時は奇抜なステージ衣装が印象的でしたが、今だったらレディー・ガガのさきがけみたいな人(インタビューで本人もそう言ってました)。もう40年前になりますが非常に感動的な曲です。

この曲のキーはF。

Aメロの部分、Ebというコードが出てきますが、これはノンダイアトニック、すなわち調が一時的に変わっているということです。


試聴 Download

不自然に聞こえないのはEbの直前のコードBbがEbのドミナント(V)だからです。

サビの部分、ここでのAbへの転調が劇的な効果を生んでいると思います。


試聴 Download

いかがでしょう、後半の非常に力強いメロディー・ラインが印象的な不朽の名作ですね。
(近年は1音下げ(Eb)で歌ってるようです)


AFTER THE LOVE IS(HAS) GONE / Earth,Wind & Fire

Earth,Wind & Fireの79年の大ヒット、グラミー賞とりました。
コード理論などを説明する際に頻繁に例に挙げられる「おいしい転調」盛りだくさんの~まるで転調の教科書のような曲です。

さてさて、この曲のキーもFですが、

0:55、Fで落ち着いたと思ったら突如ガーンと「Amaj7(onB)」が鳴って「Emaj7」へ進行、一番遠いキーのBに「突如」転調しております。

・・少々強引ですが非常に新鮮な雰囲気ですね。

そして1:02の「Bmaj9」ロングトーンで黒鍵グリス(注※)、そのままトップノートD#(=Eb)を共通音として1:06秒で「Cm7」にチェーンジ!!

※黒鍵の音がそれぞれ「Bmaj7」の9th,3rd,5th,6th,major7thになるのです!!・・お手軽だけど結構効果的なワザ。

いやーこの箇所は何度聴いてもしびれます~以降もAb、Gb等にめまぐるしく転調していきますが、不自然さを全く感じさせないアレンジはさすがデビフォス!

元々はデヴィッド・フォスター&ジェイ・グレイドン、シカゴのビル・チャンプリンの作曲によるものですが、個人的にはデビフォスの曲の中ではこれがやっぱり一番だなあ・・・これまた永遠の名作ですね。

J-POP風コード進行

唐突ですが某有名曲のコード進行を打ち込んでみました。

試聴 Download

コード進行

各コードの機能を説明します(軽く眺めるだけで結構です)

注目して欲しいのはGm7-C7のとこでして、キーがCだとトニックはCメジャーコード、セブンスでは無いハズ。

しかし、サブドミナントの「Fくん」の立場なってみると、Cは5度上、すなわちドミナントなわけです。ということでここでは一時的にFに転調していると考えられます。キーFのII-Vは「Gm7-C7」というわけ。

その後肝心の「Fくん」が現れないので少々もどかしいですが、ここはスルー・・・・・

ドミナントモーション」でも説明しましたが、着地点の目標コードの前に「目標コードの」V7、それを発展させて IIm7-V7 という進行を持ってくる方法は非常に多く使われます。

なお、Fm6にはAb音が含まれますが、これは前回の「素顔のままで」でも説明した「サブドミナントマイナー・コード」というもので、「わー転調だー転調だーっ」と大騒ぎするほどの必要は無いのでご安心ください。

なお上記のコード進行は非常に多くの類似型が存在しますので、きっと皆さんもいたるところで耳にしていることでしょう。

参考:非常によくあるコード進行

これはまさに王道ですね

Just a two of us / Grover Washington Jr.

この曲(キーFm : フラット4コ)の基本コード進行は

DbMaj7 C7 Fm7 Ebm7- Ab7  

コードの機能を表すローマ数字表記だと

bIVmaj7 - V7- Im7 -bVIIm7-bIII7

Ebm7- Ab7のところ、ここだけ「おやっ?」と思ったあなたはスルドイ。

別に何も思わなかった方・・・はおそらく最近の曲をよく聞いている方だと思います・・・それだけこの進行は多くの曲で多用されていますから、普通に感じたとしてもまったく不思議ではありません。

実はEbm7- Ab7の部分は一瞬Db(フラット5コ)に転調していると解釈してよいでしょう。もしソロを弾く場合はこの部分だけは「ソ」を「ソb」にするとハマり(音を外さない)ます。

最後に

ということで、色々と転調のパターンをご紹介いたしましたが、大事なことは

「転調、テンション等を多用すればかっこいい」は大間違い。

転調はあくまで技術の一つ。大切なのはやはりセンスじゃないかなあと思うわけです。

ただ、技術的に知ると知らないでは大違いなわけで、皆さんもいろいろな音楽を「耳コピ」することでエッセンスを吸収していただきたいと思います。


というわけで「耳コピ」連載はひとまず今回で終了。このコーナーが始まったのは2011年7月。月1本以上のペースで一年続くとは思いませんでした。これまでお付き合い頂きました皆様、誠にありがとうございました。今後はまた新たな記事でお会いしたいと思います。

それではひとまずさようなら~

おまけ1

毎小節ごとにキーが変わる恐ろしい曲
Giant Steps / John Coltrane

1コーラス16小節中、B,Eb,Gという長三度のインターバルで転調が10回行われ、BPM=280というアップテンポの難局。しかし今では大学生もコンサートで演奏するらしいです・・・世の中変わりました。

おまけ2

Mozart / Ave Verum Corpus (K618) / Leonard Bernstein指揮

有名なモーツアルトの賛美歌ですが、転調が絶妙すぎて「え?いつ変わったの」って感じです、ただただ美しいですアーメン。

おまけ3

ベンジャミン・ザンダーの「音楽と情熱」
ショパン前奏曲をネタにした爆笑プレゼン・・と思っていたら感動のラストが・・・・必見!


補足:
※世には民族音楽をはじめ膨大な種類の音楽が存在しておりまして、「調性の無い音楽」はもとより、それこそ武満徹氏のおっしゃられるように「世界の音楽の中で音符(記譜)というものをもっている音楽は、ごくわずか」らしいですね。

なので調性とか機能和声はあくまで西洋音楽の中でのきまりごと・・ということは常にどこか頭の隅においておくと良いのかもしれませんね。

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