どうもサカウエです。
「耳コピに役立つ音楽知識編」ということで、前回はコードの機能を損なわない範囲でサウンドに変化を与えてくれるテンションについてお話いたしました。
このテンション、実はジャズよりずっと前のクラシックの世界でも結構使われているんですね。
ドビューッシー / 映像 第1集より 「水の反映」
曲頭は maj7th 9th,6th を多用した透明感のあるサウンドですが、0:28あたりからは刺激的な13th、#11thを多用しております。
ラヴェルのこの曲はさらにエキサイティングですね。
高雅で感傷的なワルツ
出だしの和音から禁則バリバリですがカッコイイですね。ロック魂を感じます。
この曲が書かれたのは1911年ですが、作曲者をワザと伏せて観客に当てさせるというイベントで当初は論議を巻き起こしたという逸話が残っております。まあこれ耳コピする人はいないでしょうがね・・
ということで近代クラシックの世界でもテンションは多用されてきたわけですが、今回は少々マニアックな世界に突入するかもしれません。
4度音程のコード
さて、これまでコードの耳コピでは「ルートと3rdがわかればあとは7th(maj7th)とテンション・・・・」とさんざん言っておきながら大変申し訳ないのですが、「3rdが無いコード」というものがあります・・・・いままで黙っていてすみません。
これ聴いてください。
ELP TARKUS(タルカス)
0:30〜から
いわゆるプログレと呼ばれるジャンルでございますが、1971年リリースのEL&P(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)の代表作です。ちなみに5拍子です。そういえば今年のNHK大河ドラマではこのタルカスのオーケストラアレンジ版が使われております。世の中変わりました。
さて実はこの曲にはマイナーコードとかメジャーコードという概念はあまりありません。何じゃそりゃあ!といわれても、ないもんはない。払えんものは払えんのですよ。
でこの「TARKUS」では4度の堆積和音(フォース・インターバル・ビルド)という和音が多用されています。
C音-F音-Bb音のインターバルは「完全4度」(半音で5つ)の音程ですが、通常は「4thビルド」と呼ばれたりします。展開すると「Fsus4」というコード(ファ、シb、ド)になります(sus4は後述します)
さてこの和音「1 – 4th – 7th」という構成で、メジャーかマイナーを決める3rdがないんですが、ちょっと不思議なサウンドですよね?
しかもメロディーに対してsus4コードを機械的に当てるハーモニーを多用していますので、少々フクザツな感じがすると思います。ちなみにワタクシこれ始めて聴いたのは小学生でございましたが、もうワケわかんなかったですね。
ちなみにベースライン、メロディーも徹底して4度系ですね。
キースは後日「タルカスは単なる記号だよ」と語っておりますが「4度だけでどこまでできるか、とりあえずやってみたよ〜」というノリだったのかなあ・・・真意は不明ですが、これまで紹介してきた調性感のある音楽とは別物というのだけはハッキリしておりますね。
4度和音というものを知らないと耳コピは太刀打ちできない音楽かと思います。
ついでにクラシックやジャズでの4度和音について
この「4度和音」は調性が不明瞭という特徴がありますが、こうしたプログレ系の音楽が誕生するずっと前にクラシックですでに使われておりました。
Erik Satie 1896 Le Fils Des Etoiles
1960年代になるとモード・ジャズと呼ばれるジャンルでも大活躍します。
Miles Davis / So What (1959)
モード・ジャズというのは、コードではなく旋法に力点を置いたアドリブを目指した音楽です。
マイルス・デイビスのソロですが、半音転調する前までは、ピアノでいうところのほぼ白鍵盤だけで演奏されてます(Dドリアンという旋法です)。
この曲のバッキングでも4度の和音が使用されています。
[file:shimamura-music:111020-05_sowhat.mp3:sound]
このハーモニーに関しては、このアルバムのピアノ奏者であるビル・エバンスの影響が大きいと思います。
・・・というわけで4度和音の歴史をさらっと紹介いたしましたが、4度系のコードはポップスでもよく使われるんです。それが
sus4コード
「サスフォー」と読みます。
Sus4(suspended 4th)ということなので、3rdが(一時的に)4thに浮遊してるといった意味になるのかと思います。バロック音楽などでもよく耳にしますね。
[file:shimamura-music:111020-08_PIPE.mp3:sound]
後半「ア〜メン」のところが Csus4 - C
Csus4は展開するとG音-C音-F音という配列になり、あら、これはさっきの完全4度堆積とまったく同じ。
ただsus4は「3rdが4thに一時的に遊びに出かけているだけで、最後は3rdに戻るコード」であったり、G7sus4のようにドミナント・コードとして使用されるケースが多いですね。
ということで「4thビルド」や「sus4」は「3rd音を含まない」ので、トニック、ドミナント、サブドミナントといった機能で分類したコードとは少々異なる、調性の重力圏から浮遊した特別な存在といえるでしょう・・・お、なんだかカッコイイ言い回しだ。
sus4の定番フレーズ
Sus4はいわゆるシーケンス・フレーズで多用されます。
よくあるでしょこういうの。
[file:shimamura-music:111020-10_susseq.mp3:sound]
またSus4を音列として考えると色々な応用が出来ます。
たとえばCsus4のフレーズを色々なコードの上で使ってみましょう。
[file:shimamura-music:111020-11_susvari.mp3:sound]
結果的に「ド、ファ、ソ」がテンションになったりしてるわけですね。
キラキラ系サウンドでsus4弾くと、お手軽にCMのサウンドロゴや警告音などが作れますネ
[file:shimamura-music:111020-13_alert.mp3:sound]
チョロイもんです。
・・・というわけで私たちの身の回りにはステキなsus4サウンドが満ちあふれておるのです。
マニアックな世界へようこそ
「カンタベリー系」と呼ばれるプログレの一派では、このsus4をさらに昇華させたハーモニーを多用しております。
Hatfield And The North - Underdub
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一聴するとジャズ風?と感じるかもしれませんが、実はハーモニー的には文法が異なりますね。
オーソドックスなジャズでは定番のテンション入り7thコード「3rd-7th」を多用しますが、彼らの場合「トライトーン」の使用はまれで、浮遊感のあるボイシングが特徴です。
内声にsus4の音程が含まれるようにボイシングするのがコツかなあ。
そういえばスティーリーダンも多いねこういうの。
sus4サウンドをシンセで応用してみよう
キース・エマーソンもよくやってましたが、この刺激的なsus4ハモを、シンセの「オシレーター重ね」というワザを使ってさらに過激に使うことが出来ます。
これは「鍵盤を1音押しても和音が鳴る」という音色なんですね。
アナログ・シンセでは、オシレーター(発信器、音の最小単位)を重ねて音を厚くするという手法をよく使います。これシンセの基本でーす。
たとえばこんな感じ
1オシレーターのサウンド
[file:shimamura-music:111020-16_OSC1.mp3:sound]
2オシレーターで、音程をわずかにズラしたサウンド(デチューンといいます)
[file:shimamura-music:111020-17_OSC2.mp3:sound]
二つのオシレーターの音程をチョットずらすだけでこうした厚みが出るんですね。
普通はこのように少しだけ音程をずらしたり、オクターブ違いで重ねたりして音色を作っていくわけですが、ではココでは三つのオシレーターを「ド、ファ、ソ」という音程で重ねてみます。
つまり一音弾いただけでsus4コードのサウンドになるわけですね。
[file:shimamura-music:111020-18_3Osc4th.mp3:sound]
どんなフレーズ弾いてもsus4のハモが付くのですが、4度系フレーズが相性は良いですね。
5度重ね音色
この手法、Sus4だけでなく、たとえば 5度上の音を重ねても面白い効果が出せます。
1オシレータのみで演奏すると
[file:shimamura-music:111020-19_1osc.mp3:sound]
これを2オシレーター(5度重ね)で演奏すると、、
[file:shimamura-music:111020-20_2osc.mp3:sound]
音楽的に使うには和音の構造を理解していないといけませんが、ウエザー・リポートのジョー・ザヴィヌルさんは、こうしたトリックで非常に有機的なサウンドを生み出す稀有な存在でしたね。
このテクニックは、アナログシンセに限らず、最近のシンセでも同じことができるので是非試して欲しいと思います。
さてこのオシレーター「重ねワザ」はさっきのTARKUSでも使われておりまして、耳コピすると確かに三音聞こえるのですが、あれは三和音を弾いているフレーズではありません。真面目に耳コピしてたら大変なことになりますね。
というわけでこうしたウンチクも耳コピの際にも非常に大切な要素なのではないかと思います。
最後に
近代から現代にかけては、様々な解釈で不協和音とか変拍子など、まさにおきて破りの音楽が生まれています。
和音の機能よりも音の響きを追及したワーグナー以降、こうした不協和音でも音楽になる、、いやこうした「不協和でしか表現できない音楽の世界がある」というのが現代音楽の意義なのかもしれません・・・(なんだか放送大学っぽいね)。
ではまた。
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