こんにちはサカウエです。連日の極暑ですがなにとぞ皆様ご自愛ください。
さて前回は「錯覚を起こさせるようなリズム・アレンジ」ということで「メトリック・モジュレーション」等をご紹介いたしました。今回は耳コピの難関、インタープレイで生まれるトリッキーなフレーズを紹介します。
ポリリズム的アプローチ
まずは前回のおさらいから。ちょっとひねったアレンジ。
知っている人は知っている「叙情派プログレ(すごいネーミング)」の「キャメル」。
Camel - Skylines -1:40付近のシンセソロに注目してください。
えー少々演奏は少々粗いですがとても懐かしいサウンド、今じゃあ考えられない楽曲構成ですが・・・
さて、この曲は三拍子なんですが、シンセのアドリブソロ部分は(ワザと)4拍系のフレーズになっておりまして、その「ズレ」の妙といいますか、そこが面白いところです。
・・といってもなんだかよくわからないと思いますので、フレーズを3/4と4/4表記で、続けて打ち込んでみました(フレーズはスタジオバージョンです)
このようにリズム隊は3拍子で8小節=合計24拍、シンセ・ソロは4拍子フレーズで6小節=合計24拍
合計はどちらも24になるので帳尻は合うわけです。
こうしたポリリズム的なアプローチはこの時代(1970年代)は結構多いですね。「YES」なんかも似たようなことやってましたが、調子に乗ってアドリブしていると頭を見失いますので、集中力の持続が求められますハイ。
で、次にご紹介する「インタープレイ」は上記のような「事前の決め事」ではなく、メンバー間で「即興的に行われる」やり取り・・いうなれば「本番真剣勝負」ということになります。
インタープレイとは?
はてなキーワードによれば、
ジャムセッションやインプロビゼーション→アドリブに比重を置く音楽ではもちろん、全ての楽曲に存在する必要不可欠な要素。
インタープレイとは 音楽の人気・最新記事を集めました - はてな
ということですが、よく似たものに「コール・アンド・レポンス」というのがあります。
もともと宗教音楽や民族音楽が発祥なんですが、これは呼びかけに後者が応答する形でフレーズを継承し演奏または歌唱する楽式のことです。
下記の動画はジャズにおけるコール・アンド・レポンス。これは非常にわかりやすいデモですね
基本はモノマネ。似たフレーズの応酬ですが、楽器が変われば表現方法も自ずと変わります。その結果、音楽的にどんどん発展していくというわけですね。
で、コールアンドレポンスから昇華したものがインタープレイ。今度は単なるマネじゃありません。
なにしろ「お互いの音に反応し合い、高めあって全体を活性化させる音楽的会話」ですので着地点も未知の世界。
例を挙げます(ネタが古くて恐縮です)
Sting - The Lazarus Heart (3:00~のソプラノ・サックスソロに注目)
周りをジャズ・ミュージシャンで固めたこのStingのアルバムはかっこいいですね。
さて3:00~からのリズムですが、拍を見失わないでカウントできましたか?
なんだかよくわからないという方のために、ベタ打ち込みしてみましたので参考にどうぞ(4つ打ちのカウントも入れておきました)。
2小節目からリズムが複雑に変化していますね?
わずか4小節の短い時間、2小節目の部分では以下の様な無言のやりとりがおこなわれております(多分)。
1拍目:サックス「符点8分フレーズで決めたろー」
2-3拍目:ドラム「おっそうくる?じゃワシも合わせたる(キックとスネアを符点8分フレーズでズラし)」
4拍目:ベース「楽しそーじゃのーほなワイもいくでー、C7のベースライン適当に弾いたるでー」
関西弁(?)の記述は変だと自覚はしておりますのでお心遣いは無用です。とにかくこんな感じでメトリック・モジュレーション的なシカケが生まれているわけですね。
x:アクセント 小節 2:|x○○x|○○x○|○x○○|x○○x| 3:|○○x○|○x○○|x○○x|○○x○| 4:|○x○○|x○○x|○○x○|x○○○|
ただし、水を指すようで恐縮ですが、この箇所のキメは少々決まりすぎていてチョットあざとい印象を受けます。
おそらくは何度かリハーサルを重ねているうちに「ここはコレで行こう」みたいな事になったんじゃないかと思いますです(スティングのフレーズは2小節目頭から明らかに「準備してる感」がありますもんね)
さて、こうしたインタープレイによる「錯覚フレーズ」はジャズの世界では日常茶飯事。
三拍フレーズのドラムの煽りに執拗にベースが絡み、「こいついつまで続ける気かなあ」と思いつつ付いていくうちに「あー自分はいまどこにいるんだろー?」といった話はよくあります。
大学のジャズ研などでは、連日の先輩のこうしたスパルタ・リズムの洗礼を受けて皆成長していくのです。
スリリングなバッキング
ということで、コレ聞いてください。
CHICK COREA “humpty dumpty” 個人的にはチックのベスト・チューンです。
各人のソロも凄いですが、サックスとベース・ソロにおける、チック(pf)とガッド(ds)のコンビネーションがとにかく凄まじいです。まるで事前に打ち合わせしていたかの如く「8分ウラ」のキメが決まっていますね。
リズムのアクセントが絶妙すぎて非常にスリリング。6分があっという間ですね。ずーっと4/4拍子なので、リズム・キープしているランニング・ベースを聴いて「1,2,3,4」とひたすら数えながら聴いてみてください(結構ロストするのではないかなあ)。
なおこの曲のコード進行は非常に変わっておりまして、頭からメジャーセブンスとマイナーセブンスの謎の平行移動。定番の「V7-I」というドミナント・モーションは最後に一回出てくるだけです。
したがってアドリブは滅茶苦茶ハード。
コード進行
冒頭のEb-Dは以前「タルカス」の解説に出てきたあの「4thビルド」で演奏されています。
コードは「EbM7(6,9)-DM7(6, 9)」なのですが、通常そこまで細かく表記するのは無粋(?)なので、余程のことがない限り単に「EbM7-DM7」のように表記するのが慣例となっています。
こうしたアップテンポの4ビートにおけるトリッキーなリズムを耳コピするのは、以前紹介した変拍子よりはるかにリズムに対する分析スキルが必要になると思います。
テンポを落として何度も聞いて、楽譜に記す修練を繰り返すのが良いと思います。
プロもたまにはミスることもある
というわけで世の中スゴい方々がいらっしゃるわけですが、実はプロの世界でも複雑なリズムバトルの末「今自分はどこ?」状態となり空中分解、最後は目で合図して帳尻合わせ・・ということもたまにあります。
あの(ハービー)ハンコック大先生でもブルースで「おーここ5拍になってるじゃん」ってのもあったし、人間誰しも間違いはあるものです。安心安心(ちょっと次元が違いますけどね)。
「音楽はハートだ!」というご意見はごもっとも。こうして分析するのは無粋なことかもしれませんが、たまにはこういった聴き方をしてみるのも、音楽の楽しみのひとつではないかないかと思います。
それではまた。
本日のオススメCD:ピアノとベースの絶妙なインタープレイ
Keith Jarrett / STANDARS LIVE
神次元の会話ですね。ゲイリー・ピーコック(bs)はすごいなあ。
- アーティスト: キース・ジャレット・トリオ,キース・ジャレット,ゲイリー・ピーコック,ジャック・ディジョネット
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
- 発売日: 2011/07/20
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Bill Evans / Explorations
ルート弾くだけがベースではないというお手本。カウンターラインのようなベースラインに注目
- アーティスト: Bill Evans,Scott LaFaro
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