みなさんこんにちは!
ピアノ再生物語にて2回目の登場となりますPSCピアノ調律師のカワイと申します。
前回担当ハラキの記事では「ピアノ修理」の連載第1弾として「修理1 ブッシングクロス交換」をご紹介させていただきました。ブッシングは普段は見えないところに存在する部分でありますが、ピアノの弾き心地に大きく影響する重要な役割を果たしていることが、この「修理」解説によってご理解いただけたのであれば幸いです。
前回の記事はこちら
さて今回は、前回のブッシングクロスとは逆に、日頃よく目にする鍵盤部分の修理作業についてご紹介しようと思います!
本題に入る前に、まずは鍵盤につい少々お話をさせていただきます。
ピアノを演奏する中でもっとも多く触れる場所、それが鍵盤。
子供の頃の私は、ピアノの練習をしながら鍵盤を見つめているうちに、ふとある疑問が湧いてきたことがありました。
「どうして鍵盤は白と黒なの?」
当時の私は、ピアノの先生に何でも「どうして?どうしてぇ???」と何でもしつこく聞いては、先生を困らせていたそうです。
大人になって、親からそんな話を聞かされ、先生に申し訳ないことをしていたなと今になって反省をする日々です‥‥(笑)
ちょっと話がずれてしまいましたが、みなさんはなぜ鍵盤は白と黒なのだと思いますか?
Photo by wikipedia
上の肖像画をご覧ください。
みなさんにも馴染みのある人物ですが‥‥そうです!天才音楽家のモーツァルトとその家族の肖像画でございます。
この肖像画は1780年頃のもので、モーツァルトが24歳の姿だと言われております。(今の私と同い年です(笑♪))
左から2番目がモーツァルトですが、その手元に注目してみてください。
なんと現在のピアノと鍵盤の色が白黒逆になっているではありませんか!
どうして白黒逆なのでしょうか。そしていつから今の鍵盤の色になって、逆にした理由とはいったい何なのでしょうか‥‥?
鍵盤の歴史を振替えれば、14世紀ごろまで遡ることになります‥‥ピアノの先祖は14世紀頃に生まれたクラヴィコードと呼ばれる鍵盤楽器だと言われております。
Photo by wikipedia
上の写真をご覧ください。
その鍵盤に使われたのはシャープキーが黒檀、ナチュラルキーは薄い木の板をそのまま張ったものでした。中には薄い木の板の代わりに牛骨が使われていたものもあったそうです。
つまり、ピアノの先祖である「クラヴィコード」の鍵盤は、現在と同じような配色だったことがわかります。
しかし薄い木の板では、演奏で使っている内にナチュラルキーの表面が磨り減り、黒ずんで黒鍵との見分けが付きにくく弾きにくかったそうです。
そこで変わりに使われた素材が「象牙」でした。ただ象牙は当時も今と変わらず希少なものでしたので、ナチュラルキー全てに使うとなるとこすともかかり、それはそれはたいへん高価なピアノになってしまうことが目に見えておりました。
そこで使う量の少ないシャープキーに象牙を使い、ナチュラルキーには黒檀を使うようになったのが現在の鍵盤と配色が逆な理由と言われております。
またこの配色には諸説があり、ナチュラルキーを黒い鍵盤にすることで「演奏する女性の手が白く浮かび上がり、より美しく見せるため」という理由もあったそうです。
美を追求している女性にとっては一石二鳥だったのですね♪
Photo by wikipedia
このナチュラルキーを黒にするという配色は、18世紀頃までは一般的でした。
18世紀後半になると産業革命やフランス革命が起こり一般市民も富を持ち始め、自らの裕福さを誇示し生活が豊かである証のように美術品などにも贅を凝らしました。ピアノもより贅沢にナチュラルキーに象牙を使った高価なものが好まれるようになったのです。そこでまた初期と同じようにナチュラルキーの白いピアノが多くなり、現在もそのままの配色に落ち着いているようです。
ちなみに現在でも象牙の鍵盤は存在しますが、ほとんどのピアノは白鍵が合成樹脂の板を張り合わせて作られております。
さて長くなりましたが、鍵盤の歴史の一部をご紹介をさせていただいたところで続いて本題である鍵盤修理「白鍵木口交換」の紹介に移らせていただきます!!
白鍵木口交換
演奏する時に指が触れる部分は、鍵盤の上面ですね。しかし、意外と目に入るのは鍵盤の前面だったりします。この白鍵上面のことを「木口(こぐち)」と言います。(下写真)
月日が経つと、白い色が変色して‥‥
こんなに茶色くなってしまっています。目立ちますね。
ではこれから交換していきましょう♪
鍵盤は木に貼り付けてあるので、まず木口の部分を木から切り離します。
取れましたね!!
次に木口が剥がれた木の部分をキレイに掃除し、表面をヤスリで整えます。
すべて剥がし終わりました。
続いて新しい木口を接着していきます。
まず、筆で専用の接着剤を塗ります…意外と乾くのが早い接着剤なので、うまくタイミングを計ることがポイントです。
次に木口を貼り付けて、上の写真のように浮かないように止め具で固定をしていきます。
止め具で押し付けるので、この時点でズレないように慎重に行います。
接着剤は3時間もすると乾きます。止め具を外して青い保護シールを剥がすと‥‥
美しい白が出てきましたね!!
これを鍵盤の大きさに綺麗に削って整えた後、ピアノに鍵盤を戻すと‥‥完成です!!
いかがでしたでしょうか。細かい部分ではありますが、
ピアノセレクションセンターでは一つ一つ丁寧に手作業で修理をしていきます。
なぜなら中古ピアノというのは、お客様の使用頻度などにより1台1台状態が異なるからです。そのピアノに合った方法を選択しベストの修理を行うことで、ピアノは再度輝きを取り戻すことができるのです。
自分の手でピアノがキレイに生まれ変わった時、私達ピアノ調律師は心からやりがいを感じることができます♪
次回は私カワイに代わりまして再びハラキが、「フレンジコード・ブライドルテープ交換修理」についてご紹介していこうと思います。お楽しみに♪
ピアノ再生物語「ピアノはこうして生まれ変わります」シリーズはこちら
- 第16回「キャプスタンボタン調整・ならし・あがき」
- 第15回「整調3 打弦距離・ハンマー調整・ウイッペン調整」
- 第14回「整調2 ネジ締め・鍵盤整調・ピン磨き」
- 第13回「整調1 整調とは何か」
- 第12回「修理10 ダンパーフェルト交換」
- 第11回「修理9 ネジ穴不具合・埋め木修理」
- 第10回「修理8 白鍵盤上面交換」
- 第9回「修理7 ハンマーファイリング」
- 第8回「修理6 張弦」
- 第7回「修理5 センターピン交換」
- 第6回「修理4 ハンマー膠切れ」
- 第5回「修理3 フレンジコード・ブライドルテープ交換」
- 第4回「修理2 鍵盤木口交換」
- 第3回「修理1 ブッシングクロス交換」
- 第2回「中古の魅力大公開!ピアノクリーニングと中学生職業体験」
- 第1回「バフがけ!!」
島村楽器ピアノセレクションセンターについて
ピアノセレクションセンターは、専用工房を併設したアコースティックピアノ専門のショールームです。
フロアには、新品・中古ピアノ、アップライト・グランドピアノを合わせて常時100台以上を展示しております。また、専用工房ではピアノの調整・点検・修理を行い、アフターフォローにもお応え致します。