島村楽器公式ブログ

全国展開している総合楽器店のスタッフが、音楽や楽器の楽しさや、楽器店にまつわるお話をお伝えします。

2017年秋 弦楽器ヨーロッパ買付レポート Part8

皆さまBuon Giorno!
シマムラストリングス秋葉原マネージャーの糸山です!
茂木・前田とは一人別行動の私からは、まずはジェノヴァ・ヴェネツィアの2都市の訪問についてご報告致します。


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まずはミラノ中央駅から電車で1時間半、リグーリア州の港町ジェノヴァへやって参りました。電車に乗るには、この電光掲示板でプラットフォームの番号から乗り場を確認するのですが、電車が45分も遅れた為、筆者は1時間以上も掲示板の前でずっと立ちっぱなしでした。

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2号車の待ち列には平気な顔で1号車が到着します(笑)皆で慌てて大移動・・・。イタリアへ電車で旅行を計画される方、この国の電車の適当さ加減はAttenzione!です。(アテンション・プリーズ)

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港周辺は大規模なリニューアルにより、昔より治安はだいぶ良くなったそうです。ヨーロッパで2番目の規模を誇る巨大な水族館もあります。
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バジルペーストに、松の実、チーズ、オリーブオイルなどを加えた「ジェノベーゼ」発祥の地としても有名ですね!写真のパスタは「Trofiette(トロフィエ)」と言って、この地方にしかない珍しいショートパスタなのだそうです。
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さて、ここジェノヴァでは、地元を代表する偉大なマエストロ、Alberto Giordano(アルベルト・ジョルダーノ)氏のもとを訪ねて参りました!
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同氏と映っている写真は、ヴァイオリニストNiccolò Paganini (1782-1840)が1802年から「生涯のパートナー」としてこ愛用した言わずと知れた歴史的名器、Guarneri del Gesu 1743 “IL Cannone”(以下カノン)です。
ジョルダーノ氏は現在、このカノンの保管・管理を一任されているキュレーターとしての顔を持つ、凄腕のヴァイオリン製作家なのです。カノンのキュレーターは、Cesare Candi ➡Lorenzo Bellafontana ➡ Renato Scrollavezza ➡ Alberto Giordanoへと代々引き継がれています。


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カノンはジェノヴァの市庁舎の一部が博物館となっているトゥルシ宮にある「Sala Paganini」に展示・保管されています。
ちなみに、カノンの向かいにあるヴァイオリンは、フランス:パリの巨匠Jean-Baptiste Vuillaume (1798-1875)作のカノンのコピーモデル。1833年、パガニーニはヴィヨームへカノンの修理を依頼し、ヴィヨームはその際にカノンを採寸し、フルコピーしたのだそうです。


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「Sala Paganini」は分厚い扉で仕切られており、館内の温度・湿度をカノンにとって最適な環境に保つため、閉ざされた空間の中で展示されています。
博物館内には監視員の方が区画ごとに見張りで立っているのですが、ゆっくり一つ一つの展示物を見ている時間はないので、すっ飛ばしてショートカットでカノンの区画へ急ごうとすると「コラ!順路通りまわれェ!!」と怒られますので、ご注意下さい。
私だけならまだしも、アテンドのジョルダーノさんもキュレーターという立場なのに怒られてしまいました(苦笑)

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カノンが入っている分厚いガラスケースの中には、この機械がジョルダーノ氏の工房と自宅へ、ケース内部の温度・湿度の情報を毎時間おきに発信しています。数値や外的要因で何らかの異常を感知すると、ジョルダーノ氏が呼び出されるシステムとなっているとの事です。

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カノンは「オリジナルニス」の状態のまま保管されています。すなわち、「パガニーニが弾き終えた」そのままのコンディションを維持しているのです。
顎当てを装着しないで演奏されていますので、テールピースの左右はニスが剥げてしまっています。パガニーニはテールピースから右側の部分でも、顎で挟んで器用に弾いていたのですね・・・。
ちなみに、年に数回、優秀なヴァイオリニストに演奏の機会が与えられるのですが、汗の量が多いヴァイオリニストが弾く時は、ジョルダーノ氏はじめ関係者一同は凍り付いたように見守っているのだとか・・・。

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裏板はライトに当てると虎杢の1つ1つが伸びたり縮んだり・・・、ジョルダーノ氏曰く「木目がダンスするんだよ」と言いながらじっくりと観察させて頂きました。
裏板は最大で6.2mmもの厚みがあり、ヴァイオリン製作の常識では考えられない”extreme thickness”な裏板です!
一般的には、板厚が厚すぎると「鳴らない」と言われますが、「余りにも音が大きい」ことから付けられたあだ名がこの「カノン」ですので、一般常識を覆してしまった名器なのですね。


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ジョルダーノ氏解説付きの贅沢なカノン鑑賞を終え、やって参りましたアルベルト・ジョルダーノ氏の工房。
店内にはCesare Candi 1915年、Giuseppe Lecchi 1924年、Oreste Candi 1930年、Lorenzo Bellafontana 1950年などのジェノヴァ派の名器が並ぶほか、ジョルダーノ氏は1890年創刊の世界的な楽器雑誌「The Strad」へ様々な研究発表を行っていることから、それはもう大量の本・図鑑が蔵書されています。

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(写真解説)2016年、イタリア伝統工芸の活動に対して優秀な人材にのみ与えられるMaestro d’Arte e Mestiere(マエストロ・ダアルテ・エ・メスティエレ)がジョルダーノ氏に授与された。

アルベルト・ジョルダーノ氏は1984年クレモナのヴァイオリン製作学校を卒業。
その後はSesto Rocchi、続いてCurtin & Alfと大巨匠のもとで研鑽を積み、1987年に地元ジェノヴァに工房を構えます。
1994年から、Niccolò Paganini使用のカノンのキュレーターに着任しました。

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2001年には偉大なヴァイオリニスト故Ruggiero Ricciが残した名盤「The legacy of Cremona」において、優秀な現代ヴァイオリンの1つとしてジョルダーノ氏のヴァイオリンがセレクトされ、ルジェーロ・リッチの録音に残されています。


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ジョルダーノ氏の代名詞と言えば、この特製MDF素材の内枠モルドでつくられる「Il Cannone」。
カノンをつくり始めたのは彼の輝かしいキャリアの中でも最も遅く、畏敬の念を込めて偉大すぎる歴史的名器に取り組むにあたり様々な研究を重ね、自分自身がカノンを知り尽くして納得してから、カノンのコピーモデルの製作をスタートしています。

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それでは、お待たせ致しました。今秋入荷予定の、カノンのキュレーターであるアルベルト・ジョルダーノ氏がつくる「Il Cannone」をご紹介致します!


Alberto Giordano, Italy - Genova, 2017 Guarneri del Gesu 1743 “Il Cannone”

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ジョルダーノ氏が目指す理想は、「ガルネリが作った当時のオリジナルの状態を再現する」こと。
本物から採寸した細かなデータと長年の研究から導き出したレシピのオイルニスなど、蓄積されたあらゆる情報を結集して作り上げます。
そして、「大砲」と呼ばれた名器の名を汚さぬよう、サウンド・クオリティには充分なケアが施されており、ドーンと飛んでいくような迫力のある音質が楽しめます。
カノンのキュレーターがつくる「カノンモデル」ですので、世界的な注目度、そしてプレッシャーは相当なものなのではとお察し致しますが、その期待に充分すぎるぐらい応えている素晴らしい作品だと確信しました!

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今秋の展示会からご覧頂けますので、どうぞお楽しみに!
ご本人も、東京・科学技術館で開催される日本楽器製作者協会主催「2017楽器フェア」に来日予定ですので、ご興味のある方はお気軽に島村楽器までお問い合わせ下さい!!

来年は3年に一度の楽器製作コンクール「クレモナ・トリエンナーレ」の審査員を務めるそうで、講演や執筆もあって滅多に入荷する製作家ではありません。それでも、今後のご活躍に益々目が離せませんね!

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そして、ジェノヴァを訪れた目的にはもう一つ、大変高名なバロック弓製作家がいらっしゃるとの情報をお聞きし、初訪問して参りました!・・・と言いたいところだったのですが、ジェノヴァ中心から少し離れた彼の工房へ行くには時間が余りにも足りなくなってしまったので、予定を変更してジョルダーノ氏の工房まで来て頂いてしまいました(笑)(ジェノヴァの製作家は皆んな仲良しだから、それで良いのだそうです!)

それではご紹介します、バロック弓製作家:Antonino Airenti氏です!
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アイレンティ氏は1960年ジェノヴァ生まれ。
もともとはヴァイオリンメーカーでしたが、バロック弓の世界に魅了され、1995年からバロック弓一筋20年という珍しい弓製作家です。(モダン弓の製作は行っていません。)
バロック弓は時代ごとに様々な様式があり、プレーヤーからの注文に応じて全てオーダーメイドで製作しています。

Antonino Airenti, Italy - Genova, 2017 Late Baroque Period - English Style

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このモデルは、アイレンティ氏が2005年にブリュッセルの楽器博物館で見て惚れ込んだ、後期バロックのイギリス式モデル。
17世紀~18世紀初期の演奏スタイルを理解する上で、欠かすことのできないモデルなのだそうです。
凄くマニアックな内容なので、説明には部分的な拡大写真が必要になるので省略させて頂きますが、弓の美しさとレスポンスの良さを兼ねた特徴的なスタイルとなっています。
スネークウッドの美しさに囚われてしまうだけでなく、バロック時代に思いを馳せながらその時代の音楽をお楽しみ頂けましたら幸いです!

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そして次はヴェネツィアを再訪しまして、色々な問題で入手に時間のかかっているGregg T.Alf氏の工房を再度訪れて参りました。
結果的に、グレッグ本人の作品は来年2018年の2月頃にということになりましたが、彼の唯一のアシスタントが製作した「衝撃の1本」を入手して参りました。

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入る入ると言ったものの、なかなか入って来なかったグレッグの作品ですが、本作に関しては私自身が手元で持ち帰って参りましたので、もう手元にございます。ご安心下さい!
それでは、グレッグ・アルフ氏のアシスタント作品をご紹介致します!

Carlos Becerra - Alf Studio , Italy - Venezia, 2016

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グレッグ・アルフ氏のアシスタントを務めるカルロスはベネズエラ出身の35歳。以前は名工Jens Gosta Johanssonの元で研鑽を積んでいた実力派です。
本作はアシスタント作品だからと言って、リスペクトに欠けた態度で試し弾きされたら絶対に大火傷しますよ!(笑)音質は古い楽器そのものを実によく再現されており、音抜けの良さは抜群。
グレッグ・アルフの製作思想・理念を理解し、技術を磨き上げたことを伺わせ、偉大すぎる師匠の作品に肉薄するクオリティにまで仕上げてくれました。
尚、本作をご購入の方にはグレッグ・アルフ氏より発行の製作証明書に加え、グレッグが執筆する本作についての解説書が付属致します。
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日本のマーケットに一石を投じるであろうGregg Alf Studioが世に送るこの問題作、ご興味のある方は是非お早めにお問い合わせ下さいませ!

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次は、私よりフランス・パリ、そしてベルギー・ブリュッセルでの買い付けのご報告をお届致します。もう1話、お付き合い頂けましたら幸いです。


それでは今日はこの辺で。Ciao!!

今回イタリアで買い付けた楽器は、楽器フェスタでお披露目します

今回マイスター茂木と前田が買い付けを行った楽器は、11月〜12月各地(秋葉原・横浜みなとみらい・大阪・福岡・南船橋・新宿)の島村楽器で開催される、島村楽器楽器フェスタにて展示・お試しいただくことが出来ます。
日程等決まり次第順次情報を公開致しますので、楽器フェスタページもあわせてご覧ください。

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