前モデルからなんと44年ぶりにリニューアル発売されたフットスイッチYAMAHA「FC4A」を試してみましたのでそのレポートをお伝えします。
シンセサイザー等、各種キーボードには必須のサスティーン・ペダルスイッチですが、各社からさまざまなモデルが発売されています。ペダルなんてどれもみな同じでしょ?・・と思うのは大間違い!耐久性はもちろんですが、演奏時の安定性はプレーヤーにとって非常に重要なのです。
たとえば複数のキーボードをライブで使用するケース。この場合、おそらく足元はこんな感じではないでしょうか。
少々わざとらしいかも・・・
演奏中にペダルが滑って動いてしまい、違うキーボードのペダルを踏んでしまった・・という経験をされた方もいらっしゃると思います。ライブステージではガムテープ等で固定したりするのですが、安定していないペダルより安定しているほうが良いにきまっています。
さて、今回発売されたヤマハの「FC4A」はピアノのサステインペダル型スイッチタイプのフットスイッチで、前モデル「FC4」に比べ耐久性の向上、および踏み込み時の安定性の向上を実現したモデルとなっているとのこと・・・というわけで新製品のFC4Aをヤマハさんにお借りしてじっくりチェックしてみました!
ペダルに求められる安定性とは?
前述のとおりサスティーン・ペダルは踏んでもズレにくい =「安定性」が非常に重要なわけですが、まず静止状態にあるペダルについて力学的な見地から考えてみましょう。
ご存知の通り、床に置かれたペダルには重力(W)と垂直抗力(N)という2つの力が働いています。
垂直抗力というのは質量を支えるために床から受ける上向きの力のことです。このペダルは現在静止しているのでニュートンの運動方程式 F=ma(F:力、a:加速度、m:質量)で表すと、加速度aは「ゼロ」つまり、
m×0=F ⇒ F=0 ・・・力がゼロ!
運動方程式のFは「力の総和」&「残っている力」でもあるので、今は「重力と垂直抗力が釣り合っている(プラマイ=ゼロ)」すなわち
W=N
という平和な状態です。
※注1)「加速度=ゼロ」は必ずしも静止している状態だけを表すわけではありません。仮に氷上のスケートの様に極めて摩擦係数の少ない状態においては、等速度運動となり加速度ゼロでも動いていることになります。映画「ゼログラビティー」「インターステラー」のような感じですが、しかし等速度運動を行うサスティーンペダルを目にする機会はこの先おそらく無いと思いますので、ここでは深く考えなくてけっこうです。
それを踏まえ、
さて肝心の新製品「FC4A」を見てみましょう。
前モデルFC4(左)と新製品FC4A(右)を比較してみます・・見た目のサイズも少々大きくなっていて頑丈そうですね。
踏み込みインプレッション
FC4Aは前モデルのFC4よりも踏み込み時の安定性が向上しているとのことですが、まずは踏みごこちをくらべてみました。経年で多少ヘタり気味のマイFC4と比較するのは少々アンフェアかなあと思いましたが、それを割り引いても明らかにFC4Aのほうがしっくりきます。ひょっとしてアクション機構が変わったのか?と思ったので調べてみることにしました。
これは前モデルのFC4の裏ぶたを外してみたものです。黄丸の部分に「薄板バネ(?)」が見えますが、FC4はこのバネの弾力を利用している構造のようですね。これは44年間変わっていないのでしょうか?
追記:ほぼ変わっていないそうです。
つづいて新製品のFC4Aですが・・・・さすがにお借りしているものを分解するのは気が引けます・・ので、スキマからコッソリ覗いてみました。
こちらは「圧縮コイルバネ(?)」を採用しているようです。スイッチ感知部分の詳しいスペックは後ほど調べてみたいと思いますが、安定した「ふみ心地」はこの「圧縮コイルバネ」機構のおかげなのかもしれません。
安定性が向上
つづいて肝心の安定性はどうなっているのでしょうか?非常に気になるところですが、その前にペダルが「徐々にズレて遠ざかってしまう」という厄介な現象についてあらためて考えてみましょう。
ペダルを踏む際、足は垂直方向からではなく若干斜め方向より踏みつけることになります。したがって力が分解され、ペダルには上から下への力と同時に前方方向への力も加わります(注:図はあくまでイメージです)
その結果、ペダルには上図では右方向への力(F1)が加わりますが(摩擦力のおかげで)ある限界値以上の力が加わらない限りペダルは動きません(厳密にはさらにごくわずかな空気抵抗も加わっています)
もしペダルと接地面に摩擦力がなかったら、ペダルはきっと地上を永遠にさまよう等速度運動をおこなうことになります(でもケーブルがつながっているから大丈夫!)
さてお馴染みのクーロンの摩擦法則では 荷重を P、比例定数(摩擦係数)を μ とすると摩擦力 F は
F=μP
という式で表すことができます。
つまり物体の質量が大きいほど最大静止摩擦力は大きくなります。以上のことからペダルを安定させるためには下記の2種類の方法が導き出されます。
- 質量を大きくする
- 摩擦係数を大きくする
手っ取り早いのは質量。高密度の金属などを使用し、ペダルの重量を50kgくらいにすればスケートリンク上でない限りまず大丈夫!しかしコストもかかるし誰も欲しいとは思わないでしょう・・・そこで第二の方法となるわけですが、なんと摩擦係数を大きくするためにこの FC4A にはゴム性のストッパーが前後に装着されているではないですか!
前部:このゴム?の絶妙な角度が抜群の安定性を生み出しているように見えます。
後部
前モデルFC4と比較してみましょう・・あきらかにFC4Aの摩擦係数対策は優れているように思えます。
最初の写真で写っているカーペット上で試したところ、FC4はするする動いていってしまったのですが、FC4Aはびくともしませんでした(通常の演奏です)
安定性実験
「それってほんとうなの?」という方のために論より証拠、FC4とFC4Aの安定性比較実験をおこなってみましょう。どこにでもある一般的なテーブルの上に新旧モデルを並べ徐々にテーブルを傾けていき、どの角度まで滑落を耐えることができるのか試してみました。
注)でんじろう先生立ち会いのもと・・ではないので、あくまで参考としてご覧ください。
(※2)器物破損や大怪我をする可能性があるとても危険な実験です。皆さんは決してマネをしないでください
それではスタート!
約40~45度傾けたあたりで、早くもFC4は脱落。儚くも奈落の底に落ちていってしまいました。
予想以上に粘るFC4A・・・しかし、角度が65度付近を超えるとさすがの FC4A もギブアップ。FC4Aはこの直後、実験スタッフの差し出す座布団に無事キャッチされ無事でした。
では動画でご確認ください。
いかがでしたでしょうか?安定性と耐久性が向上した新しいフットスイッチ「FC4A」は、これからのシンセサイザー&キーボードプレイヤーには必須のアイテムとなることでしょう。たかがフットスイッチ、されどフットスイッチ・・・奥が深いですね。
なおハーフペダル機能が必要な方はFC3(ステレオ標準プラグ)をお買い求めください。その際、お使いのキーボードがFC3対応機種かどうか必ずご確認下さい。
左からFC3、FC4、今回試したFC4A
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※1)FC4Aの動く速度は光速に比べて極めて小さいので相対性理論の運動方程式を考慮する必要はありません。
参考文献: