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ウェザー・リポート / ブラック・マーケット ARP2600 シンセサイザー温故知新 #003

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f0/Arp2600bluemarvin.jpg
(Photo by wikipedia

こんにちは担当サカウエです。
シンセの名演をたずね新しきを知る「シンセサイザー温故知新」第3回目はARP(アープ)シンセサイザーです。

今回のお題:Weather Report / Black Market

8:30

8:30

ARP 2600について

前回、前々回のMoogのお次はARP。
ARPは1969年にアラン・ロバート・パールマンが立ち上げたメーカー
Moogとともに2大シンセメーカーとして一時期隆盛を誇りました。詳細はWikipediaをご覧ください。

スピルバーグ監督の映画「未知との遭遇」でも大型のシンセが登場するシーンがありますが、あれはARP2500という機種。
2500はあまりに巨大でしたが、今回のお題の2600は、それよりはコンパクトなモジュラーと内部結線のハイブリッドな方式のシンセです。
スティーヴィー・ワンダー、ジャン・ミッシェル・ジャール等々、多くのミュージシャンに愛用されました。

キーボーディスト深町純氏はこのARP2600を購入し、一刻も早く使いたいという一心で、使い方もよくわからないままステージで演奏されたそうです。
その際、音を止めるときはいちいち電源切っていたとのこと・・・と何かで読んだ記憶がありますw

年代によって若干ルックスや仕様も変わりますが、ツアーケース状態の当時としては可搬性に優れたシンセでした。
さて、今回はそのARP2600ならではの音色・・というかプログラムをネタにして見たいと思います。
それではこれを御覧ください。

Weather Report / Black Market

ワタクシも大尊敬するジョー・ザヴィヌル(kb)さんの超絶マルチキーボード・プレイが堪能できる曲です。
ARP2600は2台セッティングされているようですね。
2:45〜あたりのプレイは右手左手大忙し。3、4台のキーボードを縦横無尽に弾きまくっておりますが、
手前のシンセ(Oberheim 8voice)で弾いているブラス風音色は一つの鍵盤で和音(Sus4系?)が鳴る音色プログラミングがされているようですね、さすがです。

(追記:「Scarlet woman」では6オシレーター重ねの和音サウンドを使用しているみたいです)

・・・・しかしながら今回のお題はこの箇所ではなくテーマ部分。0:26あたりのメロ(ARP2600)に注目してください。

・・鍵盤を演奏する方はすぐ「なんだこれ?」と気づかれたかと思いますが・・そうです「鍵盤の音程が逆」になってますね。
先ほどネタは「音色というか・・・プログラム」と書いたのはコレのことなんです。

普通の鍵盤で「ドレミファソラシド」と弾く場合、鍵盤の左側から右側に指を移動させます。
すなわち低域⇒高域、つまり右側に行くに従って音域は高くなるわけです。
しかしザヴィヌル翁の演奏はこれとは逆!・・はいそれを踏まえてもう一度ご覧ください。

いかがでしたか?不思議な感覚ですね。

ARP2006Vで特殊な音程を再現してみる

ちなみにこのメロディーの音階は「Bb,C,D,F,G」という5つの音で出来てる「ペンタトニック」というスケール。

これは民謡とか演歌とか、世界中の多くの音楽で使われる音階ですが、Black Marketのメロディーは独特ですよね?
普通は思いつかないような前後関係の音列だと思います・・・さてこれに関する考察は後回しにして、とにかくこれを再現してみましょう。

使用するシンセはArturiaのそのままズバリ「ARP2600V」ARP2600を完璧にエミュレーションしたソフトシンセです。

この音色のヒミツは鍵盤の高低が「逆(リバース)」に設定されているという点。
これはシンセであればどれでも再現可能という話ではありません。mini MOOGのような内部結線タイプではほぼ無理。
一部のパッチングタイプのシンセだからできる荒業です。
(音程のキーフォローを逆転設定できる機種であれば、一部のデジタルシンセでも再現可能です)

キーボードのCVアウトを、ボルテージプロセッサーというセクションで逆相にし、それをオシレーターの音程に当てています。
これで鍵盤の高い方に行くに従って音程が「低く」なるわけですね。C音を起点として音階が逆転しますので、

CはC、DはBb、EはAb、FはG、GはF、AはEb、BはDb という音が鳴ることになります(ああ、ややこしい)

Black Marketのメロディーを通常と逆転版で弾いてみました。

逆転バージョンですが、最初は全く弾けなかったのですが、30分位練習したら(違和感は残りますが)何とかなりました。
ですが、今度はノーマルな鍵盤で弾けなくなってしまいました(泣)

参考:逆転した音列を通常チューニングで鳴らすと。。

なんでこんなことを?

ところでみなさん不思議に思いませんか?なんでザヴィヌル翁はわざわざこんな面倒なことをしたのか?

これはわたくしの勝手な想像ですが、習慣(指癖)で平凡なフレージングになるのを回避するためだったのではないでしょうか。
ぜひ皆さんも一度お試しいただきたいですが、高低が逆転した鍵盤でイメージ通りのメロディーを弾くのは至難の業です。
試しに鍵盤の背後に回って「レーファレドーシbソ」って弾いてみてください。

いかがですか?非常にもどかしく切ない気持ちになったと思います。
でも、これは逆に考えると、これまで自分の引き出しにはなかった「運指=メロディー」を生み出すことができるとも言えるのではないでしょうか。
動画では後半サックスソロ後の半音転調部分ではノーマルチューニングに戻してますね。

Black Marketのメロディーが個性的なのはこの高低逆転音色のお陰ではないかと思います(全然違ってたらスミマセン)
あと、これ左手で弾くともっと難しいですよ。。。

P.S.他にもこのライブ盤に収録されている「In a Silent way」のシンセパッドのプレイは必聴です。
印象派的なボイシングとボリュームコントロールによる素晴らしい表現力。泣けます。

というわけでまた次回お会いしましょう。

おまけ

Roland Fantom G7のコードメモリー機能を使うと、ザヴィヌル翁の様なトリッキーなプレイが可能です(オシレーター重ねとはニュアンスは異なりますが)
動画では「ド」を弾くと「ソ、シb、ド、ミb、ファ」が鳴るようにセッティングしています。

温故知新第一回目で紹介したキース・エマーソンも、昔のライブではオシレーターの4度重ねサウンドで、sus4フレーズ弾いたりしていますね。
単音で弾いてもsus4ボイシングサウンドになる音色です。


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