島村楽器公式ブログ

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ピアノ再生物語「ピアノはこうして生まれかわります」第7回「修理5 センターピン交換」

みなさん、こんにちは。4回目の登場となります、ピアノセレクションセンター(以下、PSC)ピアノ調律師のハラキです。

さて今回は、修理特集第5回「センターピン交換」についてご紹介させていただきます。

センターピンとは?

センターピンは真鍮(しんちゅう)にニッケルメッキを施したピンのことです。
直径は1.2mmから1.5mmと、とても細い小さなパーツです。

真鍮とは、銅と亜鉛との合金で亜鉛が20%以上のものをいいます。
黄色で錆にくく、鋳造・加工がしやすいのが特徴です。
黄銅(おうどう)とも呼ばれています。
ニッケルメッキとは、耐食性に優れ銀白色の色合いで装飾的価値が高くあります。
加工しやすく、かつ適当な硬度があることが特徴です。

共通していることは、見た目が美しいことと耐食性が高いということです。
長く使用してもらうためにこのような材質が使われています。少しマニアックですね。

センターピンはアクションの中に使用されています。
フレンジという各機構を繋げる役割をするブロック状のパーツの中心軸となり、上下前後の滑らかな動きを作り出しています。

「フレンジ」とひと言で言っても、アップライトピアノのアクションの中には「バットフレンジ」・「ウイペンフレンジ」・「ジャックフレンジ」・「ダンパーフレンジ」などがあります。
これすべてにセンターピンが付いているとなると、相当な数になりますね・・・。

なぜ交換が必要なのか?

センターピンはニッケルメッキが施されていますが、長年使用していると汚れや埃の付着やピンの錆びによってピンとクロス間の摩擦が大きくなることで、フレンジの動きが鈍くなってしまいます。
そのままの状態ですといずれ動かなくなり、バットフレンジの場合はハンマーの戻りが悪くなり、連打しにくくなります。
また使用量が進むと、ピンの収まっているホール(穴)のブッシングクロスが磨耗しホールが広がって、ピッタリだったピンとの隙間が広くなり“ガタ”の状態になってしまいます。
こうなると、ハンマーがを叩くときに力を全て発揮できずに良い音が鳴らないだけでなく、アクションの寿命を縮める原因ともなり得ます。
初期の“ガタ”を解消するために交換を行ないます。

他にも湿度の高い環境に置かれる場合には、正常の太さのセンターピンでは動きが鈍くなってしまうので、細いピンへの交換やブッシングクロスを圧縮させて隙間を作ることもあります。
最良の動きとなるように工夫して、修理を行なっていきます。

修理5回 センターピン交換

今回はバットフレンジのセンターピン交換を行ないます。

まずは、元々付いているセンターピンを取り外します。
こんな道具を使用します。

その名もセンターピン抜き!そのままです。
ブッシングクロスを傷めないようにセンターピン抜きをピンの真上に当てて、金槌で叩いて抜き取ります。

取れたら、新しく取り付けるピンを選びます。

ピン番(No.) 19 19 1/2 20 20 1/2 21 21 1/2 22 22 1/2 23 23 1/2 24 24 1/2 25
直径(mm) 1.2 1.225 1.25 1.275 1.3 1.325 1.35 1.375 1.4 1.425 1.45 1.475 1.5

センターピンは、1.2mmから1.5mmまで0.025mmの間隔で直径の異なるものが13種あります。
0.025mmといえば私たちの髪の毛が0.05mm〜0.15mm(平均0.8mmくらい)ですので、髪の毛3本分ずつしか変化がないということになります。
いやー、僅かな変化ですね・・・。

太すぎるとフレンジの動きが鈍くなり、細すぎると“ガタ”となってしまいますので、調度良い太さを選ぶことがポイントです。
0.025mmという僅かな違いですが、この差が全体の動きをがらりと変えてしまうくらい重要なのです。

ピンが決まったら、打ち込みです。
バットとフレンジのホール位置を確認して、ずれない様に真っ直ぐピンを打ち込みます。
ピンが貫通したら、はみ出し余った部分をペンチで切ります。
ピンの長さは1.7cm程ですが、両端は打ち込むための加工がされて太さにばらつきがあるため、中央に持っていき左右を切ります。
切ったら、センターピンの側面にヤスリをかけて平面を出します。

これで交換完了です。

交換を行ないセンターピンがホールにぴたりと合うと、フレンジの動きが滑らかになります。
フレンジの動きが良くなると、アクション全体の動きも変わり、音を出す力がより伝わり易くなります。

おしまい

いかがでしたでしょうか?
私は手が大きくはないので違和感なく行なっていますが、大きな手の男性調律師がこの修理をしている光景は・・・少し見ものですよ。
調律師はこうしたミリ単位の作業も多くあるのです。

修理には木製だけではなく、真鍮やクロス、フェルトなど材質の異なるパーツが多く使用されています。
ピアノの個体差、お部屋の環境にもよりますが、パーツによって消耗・磨耗する時期が異なります。
それを見極めて初期段階で修理や改善策を打つことが、ピアノを長持ちさせる秘訣です。

次回の第8回ピアノ再生物語は、ハラキに代わって調律師カワイが修理6回「張」についてご紹介させていただきます。
張り替えます!力技です。

では、また(・ω・)

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