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ピアノセレクションセンター【スタインウェイコンサートグランドD-274 オーバーホールの記録】〜後編〜

こんにちは。Webサイト担当のオクダです。

全国の島村楽器 各店舗が配信している、店舗情報・イベントブログの記事の中から、おすすめの記事をご紹介するこのコーナー


今回はスタインウェイオーバーホールの記録の後編をお届け致します!
前編の様子はこちらからご覧下さい!

こちらの記事は、島村楽器店舗ページで掲載している情報の中から、おすすめの記事をそのまま掲載しています。既に開催し終了しているフェア・イベント、販売が終了している商品情報の場合がございますので、ご注意ください。

Vol.3 ハンマー交換、ダンパー交換

ハンマー交換

スタインウェイ純正ハンマーを使用しました


これからアクションに取り付けるハンマーです。
今回のオーバーホールでは、ほとんどのパーツに純正パーツを使用します。
ハンマーももちろん、ハンブルクスタインウェイの純正ハンマーです(レンナー社製)。

ハンマー間隔合わせ


アクションブラケットにハンマーを取り付けた段階で、スタインウェイ専用の『フレンジスペーサー』という工具を使い、ハンマーの間隔を等間隔に揃えます。

ハンマー傾き修正


間隔をそろえるのと同時に、ハンマーの『傾き』も修正して、に平行に当たるようにします。ハンマーシャンクをアルコールランプで温め、左手で傾きを修正します。

ハンマー走り修正、鍵盤調整


高音部と最高音部のハンマー全てが、静止位置から垂直に上がるようにします。
同時に、ブッシングクロスを貼り替えた鍵盤の上下の動きをスムーズにする鍵盤調整も行います。


以上の工程はいずれも、打鍵のエネルギー(鍵盤を弾いた力)をできる限りそこなわずにハンマーに伝え、良い音に反映させるための重要な作業です。

合わせ


ピアノの中音部高音部では、1本のハンマーが3本を打ちます。
スタインウェイの合わせは、シフトペダルを踏み込んだときに左側の1本が完全に開放されるように、少し高音側に寄せて合わせます。このように合わせることで、開放されたときに左側のが共鳴の役割をして、多彩な音色コントロールが可能になります。
上の画像が通常時、下の画像がシフトペダル使用時。

ダンパー取り付け、ダンパー総上げ


フェルトを新しく貼り換えたダンパーを本体に取り付けます。
垂直・水平に上下できるようにダンパーワイヤーを慎重に曲げて取り付けます。
その後の調整が『ダンパー総上げ』です。ダンパーペダルを踏み込んだときに、全てのダンパーが同時に上がるように微調整します。
ダンパー総上げがきっちり揃っていると、止音だけでなく、ハーフペダルやクォーターペダルなど、微妙なペダリングでの音色変化のコントロールができるようになります。


現在、D-274のオーバーホールはハンマー交換とハンマー成型(ファイリング)が終わり、ハンマーフェルトを固めて音に輝きを与える『硬化剤』を塗って、いよいよ最終の整音に入ります。
Vol.4では、整音の様子をお届けいたします。

Vol.4 整音完成

整音の完成です

ピアノの整音

『ピアノの整音』と聞いて、なにをイメージしますか?おそらく、ピッカーという道具を使ってハンマーに針を刺していく姿を思い浮かべるのではないでしょうか。

整音で最も重要なこと

コンサートピアノに限らず整音をするときには、針を刺していく前に『ピアノとコミュニケーションをとる』ことから始めます。
半音階、白鍵だけ、黒鍵だけで全音域の音を聴く。曲を弾いて全体の響きを聴く。
こうして注意深くピアノと向き合っていると、『こんな響きにして欲しい』という『ピアノの声(要望)』が聴こえてきます。


さらにピアノがお客様所有のものであるときは、お客様ご本人と充分にコミュニケーションをとり、『お客様の声(要望)』を聴きます。
こうして、『どのような音創りにしていくのか』を最初に決めることが、整音をする上で最も重要なことなのです。

今回整音をするスタインウェイD-274は島村楽器の商品、つまり、まだ所有者の決まっていないピアノです。
商品の整音をするときには、スタインウェイらしさが感じられる響き=『スタインウェイ・スタンダード』の響きに仕上げます。

スタインウェイ・スタンダード

『スタインウェイらしさが感じられる響き』というと一般的に、

  • ブリリアントな響き
  • パワフルな響き
  • 高音がキラキラしている

などと言われることが多いようです。


ところが、整音をする技術者はこういった漠然としたイメージを持つだけでは、いい音を創り出すことができません。

技術者が創る『スタインウェイ・スタンダード』とは、『強弱による音色変化が明確な響き』です。

上図のグラフの縦軸が音色(音質)、横軸が強弱です。
そして、斜め一直線の赤線がスタインウェイの音です。
ピアニッシモで弾いたときはメロウな柔らかい音色に、メゾフォルテで弾いたときにはブライトな(明るい)音色に、さらにフォルテッシモで弾いたときにはベリーブライトな(より明るい)音色に段階的に変化していきます。
比較のためのグラフ中の2本の曲線はそれぞれがスタインウェイ以外のヨーロッパのメーカーの音の特徴を表しています。
上の緑の曲線は、ハンマートップ(打点)が硬く仕上げられているため立ち上がりが鋭く、明るい音が特徴のピアノです。
下の青の曲線は、ハンマートップが柔らかく仕上げられているため、繊細なピアニッシモが特徴のピアノの音です。


このように、明確な完成形をイメージして、ハンマーの状態を確認しながら慎重に整音を進めていきます。

ハンマー成形から始めました

今回取り寄せたハンマーは、フェルト全体が非常に柔らかかったため、ハンマー成形(ファイリング)をして、硬化剤という薬品を塗ってフェルトを固めて音を創っていく方法を選びました。

ファイリング

スタインウェイのハンマーの形は、『ダイヤモンド型』と呼ばれ、他のメーカーに比べて少し角ばった形に成形します。

上の画像がファイリング(成形)前のハンマー、下の画像がファイリング後のハンマーです。ファイリングには、4種類の布やすりを使用します。


形を作る第一段階では、80番のやすりを使用します。その後、180番→240番→600番と次第にやすりの番手を細かくして、表面を滑らかに仕上げていきます。

硬化剤

ファイリングが終了し、ハンマーの形が整ったあとに、フェルトの繊維を固める硬化剤を塗ります。

ハンマーの手前側と奥側と交互に硬化剤を滲み込ませていきます。
ハンマーフェルトの下部から徐々にハンマートップ(打点)へ向けて数回に分けて滲み込ませます。
ハンマートップから硬化剤を流し込むのではなく、下から少しずつ、時間をかけてハンマーフェルト全体に滲み込ませます。


少々時間がかかりますが、こうすることで、ハンマーフェルトの『コア』と呼ばれる最も硬い部分が作られ、音に輝きが生まれます。

ヴォイシング

硬化剤が十分に乾燥したら、ハンマーフェルトに針を刺して音質を整えていきます。
今回の整音では、柔らかいフェルトを硬化剤で固めていったので、派手なヴォイシング(針刺し)はせず、ハンマートップ(打点)付近に浅く針を刺して、強弱によって段階的に音色が変化するように音を整えていきます。

スタインウェイD274オーバーホールの完成です

約2ヶ月間のD274オーバーホールが遂に完成しました(2010年7月)。
ピアノセレクションセンターの技術者が愛情を込めて整備した、このD274。
ご来店、ご試弾いただいたお客様にとって『特別な1台』となっていただけるよう、引き続き調整・調律を繰り返し、最高の状態に仕上げました。


ご売約いただきました

このD274は2010年9月、ご売約・ご納入済みとなりました。ありがとうございました。ピアノセレクションセンターでは、引き続きスタインウェイのオーバーホールを行なっていきます。その様子を随時webにアップしていきますのでご期待ください。

【Tecnical】スタインウェイコンサートグランドD-274 オーバーホールの記録 - ピアノセレクションセンター 店舗情報-島村楽器

スタインウェイのオーバーホールの記録後編の様子いかがだったでしょうか!
丁寧に調整されたピアノの音色、ぜひ聴いてみたいですね!
ピアノセレクションセンターでは、こういった裏側をたくさん紹介していますので、チェックしてみてください!

それではまた次回!

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