島村楽器公式ブログ

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ピアノ再生物語「ピアノはこうして生まれかわります」第5回「修理3 フレンジコード・ブライドルテープ交換」

みなさん、こんにちは。3回目の登場となります、ピアノセレクションセンター(以下、PSC)ピアノ調律師のハラキです。

新しいことに挑戦したくなる季節ですね。
私もピアノのレパートリーを増やすべく、曲の練習を始めました。
しかし、譜読みが遅くてもう‥‥(笑)
この連載をやっている間には完成!と、いきたいところです。
何の曲を練習しているのかということもご紹介していきたいと思っております。
みなさんも、始めてみたかった楽器や楽曲にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

さて、第5回ピアノ再生物語、今回はフレンジコード・ブライドルテープ交換をご紹介させていただきます。

フレンジコード・ブライドルテープの役割

今回の修理箇所である「コード」・「テープ」というのは、この言葉からも色々と想像できるかと思います。
どこで使われているかといいますと、内部の音を出す動きをする「アクション」と呼ばれる機構の中にあります。
外側からでは決して見ることができない、そしてとても細かいパーツなんです。
ハンマーというを叩く役目をする部分の下、キャッチャーとバットフレンジというパーツにあります。


フレンジコード、右がブライドルテープです。
フレンジコードにはスプリングというバネを引っ掛け、ブライドルテープはブライドルワイヤーに取り付けることで、戻る力を作ります。
ひとつずつ付いていますので、それぞれ88個ずつあります。

さてこのフレンジコードとブライドルテープは、主にアップライトピアノに使われています。
グランドピアノには、モデルによりますけれど使われていることが少ないのです。
なぜ、アップライトピアノにだけ多く使われているのでしょうか?
それは、アクションの「向き」に違いがあるためなんです。

アップライトピアノはグランドピアノの後に誕生したピアノです。一般家庭により多く普及するようになるために、小型化が求められました。
その際に、横向きのピアノを縦向きにし奥行を狭くすることができたので、設置面積を多く取らなくて済むようになりました。
そのため、アップライトピアノは「縦型ピアノ」とも呼ばれています。
元々横向き仕様のアクションシステムですので、本体を縦にしたことによりシステムを変えなければならない箇所が多く出てきたのです。

重力に負けるな!

グランドピアノではハンマーは寝ているような向きにあり、その上にが張ってあります。
みなさんが鍵盤を弾くとハンマーが持ち上がり、下からを叩きます。戻るときは重力が助けてくれますので、ストンと戻ってくれます。


また、鍵盤を全て戻さず途中からでも再度弾くことのできるレペティション機構により、「1秒間に約13回」の連打が可能ということもグランドピアノの特徴です。

これがアップライトピアノですと、を縦に張ったことでハンマーも縦に立ったような向きにあります。
そうしますとを叩くときは、みなさんが鍵盤を弾く力で動かすことができますが、戻るときにグランドピアノにはあった重力がなくなり、戻る力が弱くなってしまいます。

戻る力が弱まれば、打鍵・連打がなかなか思う通りに行なえず、みなさんのトリルが台無しです!困ります!
そこで、戻る力を助けてくれるのがバネなどの機構に加えて、このフレンジコードとブライドルテープです。
これにより、アップライトピアノでは「1秒間に約7回」の連打が可能となります。
みなさんのトリルも守られるというわけです!よかったー!

せっかく、アップライトピアノのお話がでましたので、少し種類についてもご紹介させていただきます。

アップライトピアノの種類

アップライトピアノは背の高さによって分類ができます。

120cm以上 スタンダード
110cm以上 ステューディオ
100cm以上 コンソール
100cm以下 スピネット

簡単に高さだけで分類しましたが、背の高さが異なると中の構造も大きく変わります。
特に、アクションの設定される位置が上下で異なることで(背が高ければアクション位置は高く、背が低ければアクション位置は低くなります)タッチが変わるだけではなく、高さが異なると全体の大きさも変わるため、響板などの音を響かせる部分の面積も変わり、音の伸びや響きも違ってきます。

アップライトピアノといっても多くの種類があるのです。

現在ではスタンダードからコンソールまでが主流とされ、スピネットタイプはほとんど見かけることはありませんが、王道のスタンダードは響き・音量があり弾き応えがありますし、コンソールは装飾が凝っているものが多く、見た目から華やかな上に場所もとらないと、それぞれにいいところがあります。
といいましても、これは私が感じることですので、「弾く人」・「見る人」によって感じ方は様々です。
みなさんのお住いや用途に合わせて、ピッタリの1台を選んで頂けたらと思います。

では、ピアノの種類についても分かったところで修理に参りましょう!

ピアノ修理3 フレンジコード・ブライドルテープ交換

交換しなければならない原因ですが、コード・テープは繊維でできていますので、経年変化により変色・中には切れてしまう物も出てきます。
また、ブライドルテープにはワイヤーに引っ掛ける為のブライドルテープチップというパーツが付いています。
このチップも長年使用していると割れてしまう事があり、チップ割れは雑音の原因にも繋がります。

まずは、古くなったパーツを全て取り外します。

新しいパーツですが、フレンジコードはこのように1本の長い紐からできています。

これを88個同じ長さに作ります。
ここで大切なのが、現物合わせです。

基準となる長さは勿論ありますが、メーカーや品番によって様々です。
ですので、元々付いている現物に合わせて新しいパーツの寸法や位置を決めていきます。
上の写真のように、元々付いていたブライドルテープの長さで基準を作り、同じ長さで切り揃えます。
こうすることで、交換前と後のタッチの変化を抑えることができるのです。
取り外し、現物合わせを行ない新しいパーツを作ったら、取り付けです。

フレンジコードは、フレンジと呼ばれるパーツについているのでフレンジコードと呼びます。
フレンジには細い溝が掘られているので、そこに接着剤を着け、溝に合わせてフレンジコードを取り付けます。んー、細かい作業です。

ブライドルテープはキャッチャーというパーツに取り付けます。

取り付けが完了したら、外したパーツを元に戻して完成です。


おしまい

いかがでしたでしょうか?
こんなに細かく、しかも紐のようなパーツが付いていたことは驚きかと思いますが、これらを交換できるというのもびっくりですよね。
交換を行なうと、無理なく力が伝わり滑らかなタッチ作りに繋がります。
数え切れないほどの小さなパーツが合わさることで、ひとつの音を出せるようになっているのです。

次回の第6回ピアノ再生物語は、ハラキに代わって調律師カワイが修理4回「膠(にかわ)切れ・ハンマー植え」についてご紹介させていただきます。

膠(にかわ)とは何なのでしょうか。気になります。
では、また(・ω・)

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ピアノセレクションセンターは、専用工房を併設したアコースティックピアノ専門のショールームです。
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