島村楽器公式ブログ

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STEINWAY(スタインウェイ)の秘密 Vol.3 音の命「リムと響板」の秘密

みなさん、こんにちは。おなじみ(?)のマニアック調律師イシイです。
「スタインウェイの秘密」、と題したこのダイアリーもVol.3を迎えました。始めたときは「本当に続けられるのか?」と少々不安でしたが、「スタインウェイの本当の素晴らしさをみなさんにお伝えしたい」、という熱い想いで、原稿を作成しております。
これからもよろしくお願いいたしますm(_ _)m
それでは次回をお楽しみに…、ってここで終わりにはできませんね。

さて、今回Vol.3では、スタインウェイの音の命、といっても過言ではない「リムと響板」について語ってみたいと思います。
みなさんは「リム」と聞いて、「あぁ〜あれね」と分かる方は‥‥少ないですよね。日本語に訳すと「側板(ガワイタ)」といいます。だんだん分かってきました?そう、外側の板です。
グランドピアノの外側の板って、独特の美しい曲線を描いていますよね。イシイはアクションだけでなく、あの美しい曲線美にも萌えてしまいます(また始まった…)。

上の画像は、スタインウェイのフルコンサートグランドD型のリムを成型した後、接着剤を乾燥させているところです。なんだかくぐってみたいですよねぇ〜♪

メーカーを問わず、グランドピアノのカタチってみんな同じ様ですよね。でもあの曲線美、実はスタインウェイが最初に創ったんです。しかも、薄い板を張り合わせた一枚の合板を、一気にあの曲線に仕上げてしまいます。

イシイが、スタインウェイのハンブルク本社工場で技術研修を受けたとき、カリキュラムの中で工場見学が3回ほどあり、リムの成型作業を、実際に見ることができました。工場内での写真撮影は厳禁だったため、残念ながらみなさんにお見せできる画像がありませんm(_ _)m
しかし、スタインウェイの「88key スタインウェイができるまで」という本に、私が見てきた工程と同じイラストがありましたのでご紹介します。

上の絵は、工場の技術者が、リムの材料になる「かえで」と「マホガニー」の板に、接着剤を塗って貼り合わせているところです。ピアノの大きさによって枚数が異なりますが、薄い板15枚〜18枚を貼り合わせ、外側と内側のリムを一気に成型します。

そして、次の絵は、糊付けされたリムを、グランドピアノの形に成型しているところです。
蒸気を使用せず、熱だけをかけて2時間で成型後、6〜8ヶ月の間、接着剤を乾燥させます。蒸気を使用しないため、一度リムの形が決まると、半永久的に変化しない、安定性と耐久性を兼ね備えたリムが出来上がります。
下の画像は、グランドピアノカットモデルのリムです。88key右側高音部の「腕木」とも呼ばれる部分です。たくさんの薄い板を貼り合わせてあるのがよく分かりますね。

次に「響板」です。
現在、スタインウェイで使われている響板材は、「アラスカ産シトカスプルース」。
ハンブルク工場研修では、響板材の選定工程も見ることができました。研修前に、私の上司からは、「響板の選定と貼り込みは絶対に見せてくれないよ」といわれていました。しかし、実際の工場見学に先立ち、トレーナーから「なにか見たい工程はあるか?」と尋られたので、ダメモトで「Soundboard Setting」といったところ、「OK!!」とあっさり許可してもらい、スタインウェイの響板材選定と、貼り込み工程をじっくり見ることができました。画像が無いので文章で説明いたします。

響板材選定の部屋へ通されたとき、50歳代のベテラン技術者2人が、細長くカットされた長方形のスプルースを、拳で叩いて音を確認しながら選別をしていました。
部屋の隅に大きな箱があり、そこにうず高く積まれたスプルースが、溢れんばかりに入っていました。「これが響板に使用されていくのか?」と聞いたところ、「これはゴミ箱で、選別からはじかれたスプルースが入れてある」と聞かされました。
選別されたスプルースはごくわずかの量で、技術者2人の前の作業台に置かれていました。これを、また1枚ずつ慎重に叩いた音と、木目を確かめながら、細長いスプルースに組み合わせていました。
響板材の組み合わせをする技術者は、スプルースを叩いた音と、組み合わされた木目を見ただけで、完成されたピアノの音が聞こえてくる、というんですからスゴイですよねぇ〜。ビックリです!(@_@)!

次に、組み合わされた響板を、ピアノ本体に貼り込んでいく工程を見学しました。
この工程は、恐るべき時間と手間をかけた地道な作業で、最後まで見ることはできませんでした。
まず、大まかなグランドピアノのカタチにカットされた響板を、ピアノ本体へはめ込む。
次に、リムに接触している部分と隙間のある部分を確認して、接触している部分を鉛筆でマーキングする。
そして、鉛筆でマーキングした部分を小さなカンナで少しずつ削って本体へ戻す。
リムに接触している部分のマーキングを繰り返し、その部分のカンナ掛けを繰り返し、本体へ戻す、という、少しずつ少しずつの繰り返しの作業が延々と続けられ、ピアノ本体のリムの型に、ピッタリと隙間無く貼り合わされていきました。

この画像は、響板がインナーリム(内リム)とアウターリム(外リム)に隙間無くピッタリと貼り付けられている様子がわかるようにカットモデルの後ろ側から撮影したものです。

最後に、スタインウェイのリムと響板の、切っても切れない密接な関係についてご紹介します。
今までご説明してきたように、スタインウェイは、アウターリムとインナーリムを、同時に「一体成型」で作り、そこに厳選された響板を、ピッタリと隙間無く貼り込みます。
他のメーカーでは、アウターリムとインナーリムを別々に製造します。インナーリムに響板を乗せ、フレームをはめ込み、張をしてから、最後にアウターリムをはめ込みます。

上の画像は、スタインウェイのリムと響板です。
画像左側、手前から奥に向かって木目が走っている赤っぽい部分がリム。画像右側、右斜め下に木目が走っている白っぽい部分が響板。お互いがピッタリと隙間なく貼り合わされています。
響板の振動がリム全体に伝えられるように作られていることが分かりますね。

下の画像は他メーカーのピアノを同じ角度から撮影しました。

違いが分かりますか?他社のピアノでは、左側のリムと右側の響板の間にほんの少し隙間がありますね。
この違いは、スタインウェイでは、リム全体も発音体と考え、他メーカーでは、リムはケースとして考えて作られている、ということです。

ここで、みなさんが誤解を招いてしまうといけないので、補足説明します。
上の画像で、スタインウェイと他社の作りを比較しましたが、他社のピアノの響板とリムの間に隙間があることが、「悪い」ということではありません。
スタインウェイのリムは、発音体である以上、響板との間に隙間があってはならないのですが、他社のリムは発音体ではなく、ケースとしての役割を担っているため、響板との間に隙間があってもよい設計になっているのです。
「良い、悪い」ではなく、「設計の違い」ということを分かってくださいね☆

スタインウェイは「リム」と「響板」が一体となって音を生み出しています。振動が響板とリムに一瞬のうちに伝わり、スタインウェイサウンドが生まれるのです。
みなさんはこんなピアノを見たことがありますか?

これは、外装が透明アクリル樹脂で作られた「クリスタル・ピアノ」です。
美しいですねぇ〜♪
イシイは調律師になりたての頃、「クリスタル・スタインウェイ」なんてあったらカッコイイなぁ〜、と思っていました。
しか〜し、スタインウェイでは、どんなにお金をかけても、この「クリスタル・ピアノ」は創れませんm(_ _)m
外装の「リム」も発音体であるスタインウェイ。厳選された「スプルースの響板」と「かえでとマホガニーのリム」の組み合わせでないと、あの美しい「スタインウェイサウンド」(イニミタブル・トーンともいわれます)は生まれてこないのです。

今回は文章が多くて、チョット分かりにくかったかも知れません。スミマセンm(_ _)m
ブログでピアノの説明をするのって、すご〜く難しいですね。今回の記事だけでなく、前回のアクションについても、「どういうことなの?」、「よく意味が分からない」、っていう方がいらっしゃいましたら、ご質問、ご意見をくださいね。お待ちしております。

次回は、スタインウェイの最大の特徴、「デュープレックススケール」や「サウンドベル」について熱く語りたいと思います。

乞うご期待!! お楽しみに〜(^o^)ノシ

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